#8 801号室、夜半のふたり

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「あの……無理しないで、ていうか、そんなに見ないで、」 「これ、見たことあんの、俺だけ?」  突然顔を覗き込まれて、心臓が止まるかと思った。小さく頷くと、またため息。いったいどういう意味だろう。こんなもん見せんなよ、的な?性欲なんて湧くかよ、みたいな?……そんなに悪いのか。悪いんだな、うん。 「あたりまえ、でしょ。こんなの、誰も見たいなんて思わな……」 「こんな綺麗なの、見たことあんの、俺だけ?」  上がり気味の口角を隠しきれない彼が繰り出したのは、予想だにしないセリフ。直後、感じたことのない刺激にお腹の下が疼いた。貧相なそれの先端を、彼がいやらしく口に含んで転がしているのだ。 「確かに、ここ(・・)はちっちゃくてかわいいな」──舌で撫ぜられるたびに熱いものが溢れてくる。自分のものとは思えない声が恥ずかしくて唇を噛むと、「いいから聞かせろよ」と優しくこじ開けられる。 「あ、や……ひがし、それ、やぁ……っ」 「名前で呼べって」  鋭い痛みが走って、頭に血がのぼった。齧られたのだ。ちゃんと見てろよ、と言わんばかりに舌を這わせる顔は挑戦的で、いつもの砂糖菓子の欠片もない。男というより獣のようだ。  彼のこういう一面を見たことがないわけではない。だけど、垣間見えていただけ。男の人に真正面から欲をぶつけられるのは初めてのことで、その相手が東だということにいまさら戸惑ってしまう。 「つばき?早くしねえと、この辺が真っ赤になるぞ」 「真っ赤、って……あっ」 「肌が白いから映えるな。俺の、って痕」 「あ、と……」 「つばきの綺麗な身体を他の男に見られないように、印つけてんの。本当は、見えるところにもつけたいけど」  髪で隠れるところならいいか?答える前にうなじを吸い上げられ、ちりちりとした痛みが走る。 つばき、すげえかわいい。熱のこもった囁きに骨が抜かれて、どろどろに溶けてしまいそう。
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