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「濡れてる。自分でも分かるだろ?」
太腿とショーツの隙間からなにかが侵入してくる。その「なにか」が彼の指だということを意識すると、羞恥で頭が爆発しそうだ。
いつも書類を捲る、タブレットを素早くタップする、キーボードを叩く、男らしい指。それが、わたしのこんなところに……だめ、想像しただけで気絶しそう。
「そんなの、わかんな」
「まだ触ってないのに、こんなにぬるぬるしてる」
「だって……かって、に」
「たったあれだけでここまで濡らすなんて、そんなに早く欲しいのか?」
言葉は意地が悪いのに、口調とそこに触れる手つきは優しい。そのアンバランスさに胸が苦しくなる。余裕ないって言ったの、やっぱり嘘だよね。だって、どう考えてもわたしのほうがいっぱいいっぱいだ。
ここから先に起きることを、自分の中にある乏しい知識を総動員して想像する。少女マンガや友だちの話から得た、少ないかつ偏った知識だ。
直接は見えなくても、身体の芯を撫でられるような慣れない感触と粘着質な水音のせいで、なにをされているのかは分かる。こんなに恥ずかしいことを、勢いで教えてもらおうとしていたなんて。
「さすがに狭いな。つばき、もう少し脚開いて」
「えっ、これ、以上?」
ベッドサイドの間接照明が灯っているだけとはいえ、いまだって少しは見えているかもしれないのだ。自分でもまともに見たことのないそこを、彼に見られるなんて──ビールをジョッキで10杯くらい飲んで、右も左も分からない酩酊状態にでもならない限り無理だ。
いくら近くにいても、永遠に手が届くことはない──ほんの最近まで、そう思っていた。
あの夜、わたしは確かに彼に抱いてほしかった。だけどそれは、一夜限りの思い出にするつもりだった。
29年間できなかったことを、失敗せずにできるのだろうか。百戦錬磨の隆平と、経験ゼロのわたし。ひりひりとした痛みと、だるさにも似た疼きに翻弄されながら考える。「やっぱりおまえとは無理」、そう言われたらどうしよう。
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