#8 801号室、夜半のふたり

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「俺のを挿入()れるときは、150度くらいまで開いてもらわないと」 「ひゃ、ひゃくごじゅう……」 「指よりずっと太いからな、150度じゃ足りないかも」 「うそ、やだ、むり」 「バカ、冗談だよ」  じっくり解してやるから心配するな。目尻に溜まった涙を吸い取るようにキスをして、優しく頭を撫でてくれる。こんなときまで真面目かよ、ほんとにかわいいな。粉砂糖をまぶしたような笑顔に胸がきゅんと高鳴る。  嬉しいのに、彼にすべてを委ねるべき場面なのに──なにも知らない自分が情けなくて、無意識に泣けてしまう。 「つばき?痛かったか?」 「ううん。……ごめん、ね。狭くて、経験もなくて、なんにも分からなくて」  垂直に流れていく涙が髪を濡らす。わたしはいつもこうだ。服装やメイクを少し変えてみたって、根本的なところはなにも変わらない。地味で味気ないわたしを飾ってくれる甘い言葉も、きっと全然似合っていない。隆平がいままで付き合ってきた人たちみたいには、なれない。 「気持ちばっかり重たくて、ごめんね。こんなんじゃ、隆平、つまらないよね」 「つばき」  ふいに両頬を挟まれて、射抜くように見つめられる。元々可愛くもない顔がさらにアホ面だ。こんなときに勘弁してほしい。 「りゅうへい……やだ、不細工になる」 「おまえは、まだそんなこと言ってんのか。人の気も知らないで」 「し、らないよ……そんなの」 「俺のことをずっと好きでいてくれて、俺がはじめての男で、って、そんなん、嬉しくないわけないから。いまにも暴走しそうなの、必死に我慢してんだよ」  くそ、と抱きしめられて、また太腿に硬いものが当たる。これ、隆平の──思わず身じろぎをすると、「俺のをこんなふうにしといて、つまらないとか本気で思ってんの?」と咎められる。 「泣いた顔もかわいいから泣くな。かわいいこと言うのもネガティブなこと言うのも禁止」 「だめ、絶対?」 「だめ、絶対。おまえの身体を気遣えなくなる。無理やりにでも、俺のものにしたくなる」  そっと髪を梳いてくれる感触が心地いい。ふふっと笑うと、「だから、かわいい顔するなって」と口づけられた。 「狭いつばきのここに、俺のかたち、教え込んでやるから。ちゃんと覚えろよ」  確かめるように中心を撫でていた指が、少しずつ侵入してくるのが分かった。ひりつくような痛みと異物感。それを上塗りしていくような、未知の感覚が襲ってくる。
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