#8 801号室、夜半のふたり

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「ゆっくり慣らしてやる。おまえが気持ちいい、って言ってくれるまで」 「ん……あ、りゅ、へい……っ」 「そんな声で呼ぶな、いますぐ突っ込みたくなる」 「だっ、て、や、そこ、なんか、変……」 「ああ、ここがいいのか」 「へん、っていってる、のに……やだ、ってば」 「おまえの中、狭くてとろとろ。俺の指、溶けたらどうしてくれんの?」  なあ、と齧られた耳朶こそ溶けてしまいそう。そんなかわいい声出して煽って、俺が暴走したらどうしてくれんの?不条理な囁きに首を振っても許してもらえない。わたしよりひと回り大きい身体にすっぽり覆われて、逃げ場なんてどこにもない。  荒い息が耳にかかる。ぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開けると、切羽詰まったような男の顔。じりじりと迫るような侵入は終わらない。さらに奥を攻められ、神経の全部がそこに集中しているみたいに、些細な指の動きにも反応してしまう。 「痛くない、か?」  額に落ちてきたキスにさえ敏感だ。わたし、いったいどうしちゃったんだろう。さっきまでは痛みが勝っていたはずなのに。  身体が熱くてだるくて、例えるなら高熱を出したときのような感覚。だけど、これは風邪のせいなんかじゃなくて、目の前でわたしの気持ちと身体を翻弄し続ける彼のせいだ。触れられたところがずくずくと疼いて、気を抜けば意識を手放してしまいそう。 「だいぶ拡がってきたけど、痛かったら痛いって」 「すこし、いたい、けど……やめちゃ、やだ」  されるがままに溶けかけていた身体を浮かせて、女の子みたいに柔らかな唇を奪う。羞恥と恐怖を追いやるように、彼の唇を味わうように。  ニュアンスパーマを押さえつけていたワックスは、もう少しも残っていない。わたしが乱したせい?やっぱり、髪、撫でつけないほうが似合うよ。そんなことを言ったら、なに彼女ぶってんだよ、って怒られちゃうかな。 「隆平、の……挿入(はい)るまで、やめない、で」 「……つばき、おまえな」 「ゆび、ちゃんと、気持ちよくなって、きたから……やめないで」  懇願するように見上げると、また苛立ったように息をつかれてしまった。隆平、すごく抑えて(・・・)る。それくらいは、経験ゼロのわたしにも分かる。
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