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「食べにくいんですけど」
「我慢しろ」
「行儀悪いんですけど」
「やりたいだけじゃないのは確かだけど、いちゃつきたい気持ちはあるんだよ。四六時中な」
なにもいまじゃなくたって。こぼさないように細心の注意を払い、お味噌汁の入ったお椀を持ち上げる。
つばきの味噌汁、うまいよな。耳元にそう吹き込んできたかと思うと、間髪入れずに歯を立ててくる。危うく箸を落っことすところだった。なぜ、こんなに忙しない中でご飯を食べないといけないのか。
「隆平、わたしいま、ご飯食べてる」
「知ってる。俺はいま、つばきを抱きしめてる」
「……イラつかせたい?」
「全然」
春雨サラダの最後のひと口を食べ終え、「ほんとに痛くないのかよ」と呟く彼を見てふと思いつく。なぜ隆平は、女子が毎月凶暴化することや腰を痛めることを知っているのだろう。
「つばき?手止まってるけど、どした?」
「そういう、女子のサイクル的なの……知ってるのって、経験豊富、だから?」
もしや、わたしには一生縁のないようなアブノーマルプレイを致してきたとか?どうしよう。ますます手に負えない。
「おまえ、俺をなんだと思ってんの?妹だよ。実家にいたころ、毎月死ぬほど当たられてたんだよ」
「いもう、と?」
「ああ。普段からクソ性格悪かったけど、月イチで鬼か悪魔に変貌すんだよな。お兄ちゃん、なんて一回も呼ばれたことねえし」
可愛い妹とか、二次元の中だけの話だよな。不貞腐れたように文句を並べ立てる隆平がなんだか可愛くて、つい口元が緩んでしまう。
向井くんや間中ちゃんの「隆平さん」呼びやフレンドリーな態度──歳下の社員たちが彼に取っつきやすいのは、そこに理由があったのか。
「隆平に、似てるの?」
「正直、顔はめちゃくちゃそっくり。俺はあんなに性格悪くねえけど」
「性格の件はノーコメント。でも、妹さんが絶対可愛いのは分かった」
「俺、仮にもおまえの彼氏なんだけど、扱いひどくね?」
おまえはその性格の悪い男と付き合ってんだよ、後悔しても遅いからな。ゆるゆると絡まっていた腕の力が急に強くなり、背中に思い切り体重をかけられる。
文句を言おうと、右横を向いたのが悪かった。しめた、とばかりに唇を奪われ、そのまま舌を捕らえられてしまう。
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