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「つばき、かわいい。止まんない」
「そ、んな……待っ、あっ」
首筋を軽く吸い上げられて全身に震えが走った。「おまえ、首弱いよな」──可笑しそうに言われたって、そんなの知らない。自分のどこが弱いのかなんて、知るわけがない。
ひとつずつ探り当てられていく。彼のどこがいいのかなんて想像もつかないのに、わたしばかり、ずるい。これでは付き合う前とおんなじだ。あっという間に全部知られて、振り回されてしまう。
「りゅう、へい……そこばっかり、だめ、」
「おまえの弱いとこ、全部知りたい」
「あっ、むね、は、やだってば……」
「なんで?俺、おまえのここ、好き。柔らかくて可愛い」
早くもっかい触りてえなあ、と間延びした声が突き刺さった。ほぼ平らで申し訳程度の、男性が求めるそれとはかけ離れたようなここが?思わず疑いの目を向けると、「あ、疑ってんな」と両手で頬を挟まれる。
「おまえの身体、好き。だから早く、全部を俺のものにしたいの」
一応手加減してるけど、身体、大丈夫か?愛おしむようにぎゅっと抱きしめられて、逞しい肩に額をくっつけながら頷く。背中にためらいなく腕を回すことに、もう少し慣れなければ。
こんなに幸せでいいのだろうか。甘いときめきにも好きな人がくれる愛の言葉にも慣れていないから、ふわふわと浮いている間に足場を崩されそうで怖い。調子に乗っちゃだめ、って、頭の中で赤いランプが回ってる。
「……隆平、は?」
「ん?」
「わたしが、いい、の?」
訊いてから、さっそく調子に乗ってしまったと後悔した。地味で貧相でコンプレックスだらけの恋愛初心者が、なにを浮かれたことを。
「ごめん。変なこと言っ」
「ああ。おまえが、いい」
好きだ、と絞り出すような小声のあとに、好きとか言うの恥ずかしくて死ぬ、とさらなる小声。いつものはきはきとしたチームリーダーはどこに行ったのか、と突っ込みたくなる。
恥ずかしいくらい、恋に絆されている。足場がなくなる前に現実だと受け止めたいのに、未だに夢心地のままだ。
まだ当分、地上に戻れそうにない。この夢のような甘く心地のいい時間が、もう少し──欲深くなることが許されるのなら、ずっと──続けばいいのに。そう、バカみたいに願ってしまう。
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