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ピンク色をした、正方形のランチボックスの中に収まっているのは、色とりどりの小さなサンドイッチだ。
定番の卵サンドやツナサンド、ハムレタスサンド、イチゴジャムサンドまで。いつものようにミニトマトが脇にちょこんと添えられ、彩りと可愛らしさをプラスしている。
一方、わたしの曲げわっぱ弁当箱に詰まっているのは、昨夜の余りの鶏そぼろと絹さや、だし巻き卵にかぶのお漬物といった、相も変わらず地味なおかずたち。
今度俺にも弁当作ってくれよ、と言われたが、どう見ても「彼ごはん」的なものではない。
「つばきとお昼食べるの、久しぶり。ずっとひとりで寂しかったんだから」
自分の席で食べると、昼休みも電話取らなきゃいけないんだよね。むう、と艶々したチェリーピンクの唇が尖る。
内勤営業チームには茉以子の他に2名の女性社員がいるが、どちらともわたしたちより歳上だ。昼休み開始と同時に社食へ直行し、自席に戻るのは昼休み終了の2、3分前。よって、残った茉以子か久保くん、もしくは今年入社の新人くんが電話対応をする羽目になる。
外勤に出ることの多いわたしたちのサポートが茉以子たちの主な業務だが、彼女たちがそれを全うできているかと訊かれると怪しいところだ。
それでも、係内での衝突を嫌う係長は注意などしない。嫌な顔ひとつせずに業務を遂行する茉以子や久保くんに完全に甘えている。
「出張帰ってきてから、まともにお昼取った覚えがないんだよね。今日はゆっくり食べれてラッキー」
「忙しそうだったもんね。つばきと喋りながら食べるの、やっぱり楽しいし美味しい」
白いフリルの袖から伸びる二の腕が目に眩しい。わたしの腕も、こんなふうにふわふわと柔らかそうならいいのにな。リブニットの袖に隠れた棒のような二の腕を思い出すと、ついため息が出る。
「お土産、ありがとうね。もらったワインとチーズケーキ、昨日の晩ご飯にしちゃった」
「ご飯、それだけ?」
「うん。美味しいものでお腹も胸もいっぱいだもん」
甘いもの大好き、と公言している割には太らないし肌も綺麗なんだよね。神様は不公平だ。茉以子には、「可愛い」の才能が溢れてる。
「函館、どうだった?楽しかった?あっ、隆平くんと観光した?」
きゅるんと黒目がちの瞳がこちらを向く。隆平くん、という響きに、胸の中がモヤモヤと黒いもので覆われていく。
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