#9 うだる暮れに嘘を知る

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 つばき、大丈夫?可愛らしい声にはっとした。コーヒーの熱が手のひらに伝わって、じりじりと熱い。うん、と頷いたのと同時にスマホが震えた。「今週の土日は、空いてる?」。隆平からのメッセージだ。 「隆平くん、つばきに言わなかったんだね。出張中だったし、上司の俺がなんとかしようって思ったのかな」 「ふたり、だったのに……どうして、言わなかったんだろう」  きらきらに囲まれた大きな目が鋭く光る。「一緒にいたの?向井くんからの電話があったとき?」──身を乗り出されて、しまった、と思った。  コーヒーを啜る。まだ熱い。なぜ、ここのコーヒーは冷めるのが遅いのだろう。まさかぐつぐつ沸騰させてるわけじゃないよね。だから煮詰まっているとか? 「え、と……飲んでた」 「ふたりで?」 「まあ、軽く、だけど。すぐ帰ったよ」 「うそ、怪しい。ぜーったい、怪しい」 「怪しくないよ。わたしと、東、がそんなの……ありえないでしょ」 「全然ありえる」  その即答に顔を上げると、紙コップを置いた隙に右手を握られた。 ねえつばき、なにか隠してるでしょ。いつも花のように笑っている茉以子の真剣な表情に怯みそうになる。首を横に振ろうとしても先読みされ、「絶対隠してる。もう、ずっと前から」とぴしゃりと指摘された。 「もう、茉以子。顔、怖い……」 「つばきは、わたしのことが嫌い?」  ミルキーピンクのフレンチネイルが施された細い指に力が入る。夏でもひんやりしているのは冷え性のせいだと、前に笑って言っていた。  えっ、と無意識に声が漏れたことに気づき、「そんな、まさか」と取り繕うように続けた。嘘じゃない。茉以子を嫌いになったことなど一度もない。ただ、「好き」以外の感情が散乱しているだけで。それをうまく片付けられないだけで。  女同士とはなんてややこしいのだろうと、茉以子に出会って初めて思った。一緒にいると楽しい。気も合う。明るくて可愛くて褒め上手な彼女といると、前向きな気持ちになれる。  だけど、羨ましくて妬ましくて嫉ましい。前向きになった分、後退しそうになる。自分の心のどす黒い部分を垣間見て、水中に押し込まれたように苦しくなるときがある。
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