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「じゃあ、どうしてずっと隠してるの?わたしに恋愛の話するの、そんなに嫌?つばきも、他の人とおんなじ?……わたしのこと、怖くて気持ち悪い?」
茉以子の目に光っているきらきらがアイシャドウではないことに気づき、胸の奥のほうが軋んだ。違う、そんなことない、ぜったい。情けない声だった。説得力の欠片もない。営業職失格だ。
「つばきの話、聞きたい。もしなにか悩んでるなら、力になりたい。それに──わたしも、隠してることをちゃんと話したい」
軋んだところがぐらぐらと揺れた。あまりの振動に、あっという間に崩れてしまうんじゃないかと怖くなる。
「隠してる、こと……あるの?」
そういえば、隆平にも言ってたっけ。つばきに隠しごとしてるのはわたしも同じだし、って。
この三年間、わたしたちはなにを話していたのだろう。中身のない会話ばかりをして、お互いの出方を窺っていたというのか。──そうは、思いたくない。
「うん。ずっと、話したいな、つばきに知っていてほしいなって思ってたこと。ごめんね。わたしだって隠しごとしてるくせにね、つばきのこと、責められないよね」
──本気じゃない、んでしょ。隆平くんは、いつも、誰にでも。
直感してしまう。茉以子の隠しごとは、きっと彼のこと。「わたしも隆平くんが好きなの」「付き合ってたことがあるの」「実は、いまも……」──いったいどれだろう。もしくは全部?聞いてしまって、耐えられる?
隆平のふたつの嘘と茉以子の隠しごと。わたしはふたりに信用されていなかった。わたしも、ふたりを信用できてなどいなかった。
浮かれていた罰か、上辺だけを吸い上げて不都合なことから目を逸らしていた罰か。そして気づく。わたしはいままで、誰かと深く関わることを避け続けて生きてきた。
「東の……隆平の、こと、だよね」
騒がしい社食から人波が引いていく気配がして、もう昼休みが終わる時間だということを悟る。
午後イチの外勤、行き先は宮の森だったな。事務所に戻ったらすぐに出発しよう。隆平に会ってしまったら、どんな顔をしたらいいのか分からない。
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