#10 午前二時の夜雨

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「えっ、そんなに食べるの?ていうか、激辛ポテチって」 「食べるよぉ。激辛大好きだもん。言ったことなかったっけ?韓国料理とか、超好き」 「スンドゥブとか?」 「うん、めっちゃ好き。今度食べに行こ」  買い物かごの中には、缶ビールが4本、缶チューハイ──ジュースのようなアルコール濃度のものではなく、がっつり9%のものだ──が4本、カルパス、激辛ポテチ、枝豆、その他おにぎりやサラダなどが乱雑に入っている。  お互いが思いつくままに入れた結果だが、普段の茉以子からは考えられないようなラインナップに驚きを隠せない。 「お漬物と卵焼きは、つばきが作ったほうが美味しいから却下」  冷蔵品コーナーの前であっさりとそう切り捨て、小分けパックのキムチをかごに放り込む。 「でも、こういうのはこういうので美味しいんじゃ」「だめ。つばきのよりは絶対美味しくないもん」──そう、なのかなあ。首を傾げているうちにレジに歩いて行ってしまったので、慌てて追いかけた。電子マネー決済をしようとしている彼女に、とりあえず2000円を押し付ける。 「あ、忘れてた。下着買わなきゃ」 「明日の服は?」 「朝、いったん帰って着替えるよ。申し訳ないんだけど、部屋着は借りてもいい?」 「もちろん。なんか、わたしがつばきの彼氏みたい」  茉以子が嬉しそうにキャッキャと笑う。なんでも貸してあげる、なんなら服も。「茉以子の服は、ちょっと」と苦笑いを返すと、「あ、出た。つばきの悪い癖。そういうところが」と大きな目を吊り上げた。それから言い淀み、続きをため息に変える。 「ごめん。お説教は、うちに着いてからにする」  ──わたし、茉以子にお説教されるわけ?おっさんみたいなおつまみでビールを飲みながら?  意外にも、茉以子とふたりでお酒を飲むのは初めてのことだ。たまに休日に買い物へ行くことはあっても、ランチばかりだったから。 「憧れてたの。友達とふたりで家飲み」  重さが同じくらいのビニール袋をひとつずつ持ってコンビニを出た。そう言って笑う茉以子はやっぱり嬉しそうで、これからする話は楽しいものではないかもしれないのに、少しわくわくしている自分に気づく。
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