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「隆平くんって、変なところで真面目だよね。ひとりで盛ってるみたいでめっちゃ恥ずかしかった」
「盛ってる、って……茉以子ってば」
「だからね、つばきが断られたって聞いたとき、少しだけほっとした。あんな屈辱、わたしだけじゃなかったーって」
可愛い声で綴られる、あまりの「ぶっちゃけトーク」に頭がついていかない。盛ってるとか屈辱とか、口に出してもいいことなの?──まあ、すごく「わかりみが深い」 けど。
「つばきだって腹立ったでしょ?こっちが勇気出して誘ったのに、って。なに勿体ぶってんの、そんなにいい男かよ、ってところまで思いました」
「ひど、仮にもわたしの彼氏」
「あ、ごめん。ぶっちゃけすぎた」
からからと笑われ、つられて可笑しくなった。同僚として三年間、部下として一年間、彼氏として一週間。少しずつ確実に近づいてはいるものの、彼のことをきちんと知っているかと訊かれればまだまだだ。
「隆平のこと、異動してきたときから好きだった」
まだ冷たいビールのあと、激辛ポテチを口に放り込んだ。謳っているほど激辛ではなく、酸味とにんにくの味が強い。
「いい加減でふわふわしててほっとけなくて、自分とは正反対だなって見てたら好きになってた。あの夜、遊び相手にもなれなくて悔しくて惨めだった。自分を責めた。女性としての魅力がないせいだって」
「口挟んでごめん、それは違う。つばきはただ、自分を飾ることを避けていただけ。いっぱい素敵なものを持っているのに、それを認めたがらなかっただけ」
ここでまた、営業職としての勘を発動させる。茉以子は褒め上手だけど嘘は言わない。わたしはそれを知っている。
いままで、彼女がくれた言葉をそのとおり受け取れたことはほぼない。いつも過剰なくらいに褒めてくれるのはなぜだろうと、その裏を勘繰ってみたこともあった。疑り深く卑屈なのは、わたしの悪い癖だ。
「一見なんでもできそうなのにちょっと抜けてるし、真面目すぎるし、周りに甘えるのが下手だし」
「え、悪口言われてる?」
「うん。中でも、自己評価の低さと自己分析の精度は最悪。つばきほど自分を客観視できない人もいないよ」
「最悪……ですか」
家族でもない他人にここまで言われたことがあっただろうか。いや、ない。というより、初めてだ。それでも、込み上げてくるのは怒りの気持ちではない。
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