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女子とは思えない食べ散らかしが、可愛らしいちゃぶ台の上に広がっている。「このキムチ、美味しい。濃いし辛い」「ほんとだ。白いご飯欲しくなる」「炊く?」──なんの中身もない会話が新鮮で、ここが茉以子の部屋だということも、明日も仕事なのにどんどん空き缶が増えていくことも楽しい。
わたしもきっと、こうやって茉以子と飲んでみたいと思っていた。異動してきて三日目、ひとりでお弁当を食べる小さな背中に話しかけてから、ずっと。
「まめに美味しいもの作ってお弁当に詰めてくるところも、隆平くんの姿をいつも目で追っちゃうところも、悪いことは悪いってあっさり言えちゃうところも──羨ましいし、可愛いし、好き。羨むのって、マイナスな感情じゃないよ」
潤んだ目を細め、「着替えようよ。貸してあげる。ジェラピケ」と微笑む。パステルカラーのガーリーな雰囲気のお店に、足を踏み入れたことはない。だけど、憧れていたことは確かだ。
わたしなんか、と切り捨てていたものがたくさんある。本当は、ピンクも可愛いものも嫌いじゃない。勝手に諦めていただけで。
「……わたしが着て、気持ち悪くない?」
「はい、その卑屈なマイナス思考、今度やったら罰金ね」
「罰金って、いくら?」
「一回の“わたしなんか”につき、1万」
「うそ、たっか」
ふふ、と悪戯っぽく笑って立ち上がり、隣の部屋に消えていく。隆平からメッセージが来ていることに気づき返信を打っている途中で、柔らかそうな生地の部屋着を抱えて戻ってきた。ピンクと白の「ゆめかわいい」花柄で、どちらもまさかのワンピースタイプだ。
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