#10 午前二時の夜雨

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「え、やだ。可愛すぎる、もうちょっとマシなの」 「これ、可愛すぎてイロチ買いしちゃったんだよね。白いのまだ着たことないから、こっちがつばき」 「……ほんとに、着るの?」 「うん。写真撮って隆平くんに送っちゃおっかな」 「そうだ、さっき言ってたよね。隆平の姿をいつも目で追ってるって、あれ」 「えー、自覚なかったの?ガン見だよ、ガン見。あんなの、気づかないほうがおかしいって」 「ガン見なんてしてない」 「してる。ずっと必死に隠してたよね。すっごく寂しかったんだから。どうしたら白状してくれるかなって」  明るい表情が曇り、目線が下に向いた。「つばきの口からちゃんと聞きたかったな。隆平くんと付き合うことになった、って」──茉以子は表情管理のプロなのかもしれない。こんな顔でわがままを言われたら、なんでも聞き入れたくなってしまいそうだ。  その声には相変わらず「丁寧にやすりをかけられた棘」が含まれていて、それが容赦なく、だけど柔らかく刺さる。  そうか。やっと分かった。彼女は嫌味を言いたかったわけでも怒っていたわけでもなく、ただ──。 「茉以子、拗ねてる?」 「拗ねてない。べつに、友達だからってなんでも話さなきゃいけないわけじゃないし」 「でも、怒ってる」 「怒ってない。つばきはわたしに恋バナなんかしたくないんだもんね」  むう、と尖らせた唇を彩っていたはずのリップは、もうすっかり取れている。茉以子でもリップが剥げることがあるんだな。よく見たらアイシャドウもよれてるし、睫毛だって下を向きかけている。 「茉以子、シャワー貸して。あと、化粧水とか乳液も。茉以子が使ってるの、試してみたい」 「……いいけど」 「そのジェラピケも着てみたい。アラサーでパジャマパーティーとかドン引きされそうだけど、茉以子とならいいかな」  立ち上がってジャケットを脱ぎ、バッグの傍に放り投げた。 聞いてほしい話がたくさんある。相談したいことも。自分ひとりじゃ解決も消化もできない、だけど彼氏には絶対に言いたくない、仲のいい女友達にしか話したくない。茉以子にしたい話が、たくさんある。
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