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「付き合い始めた日にしちゃったの?出張先で?」
「してない。ていうか、できてない、の」
「え?」
「邪魔ばっかり入るの。電話とか女子の日とか。隆平、呆れ返ってるかも」
ビールにもチューハイにも飽きてしまい、茉以子がフルーツワインを出してくれた。コンビニでよく見る、トロピカルフルーツジュースみたいな味のやつだ。アルコール度数が低めだから、箸休めにはちょうどいい。
白いジェラピケに染みをつけてしまわないようにと、慎重にキムチを口に運ぶ。うん、まったく合わない。
「呆れ返るどころか、むしろ高まってるんじゃない?一周回ってつばきの純情に当てられてるに一票」
「そう……かなあ」
「話聞いてる限り、どう考えても本気じゃん。どうしてケンカしてたの?」
「あれは、その……」
──って、無理だよね。子犬くんがついに大型犬に進化するかも。顔はアレだけどガタイは悪くないし。
引き受けるべきか、その場合は隆平にどう説明しようか、いや、これってそもそも仕事じゃないよね?散らかる思考をまとめられず空のグラスとにらめっこするわたしに、佐野さんがさらりと言った。
──そんなに東さんの気持ちに確証が持てないなら、試してみたらいいんじゃないの。
──試す?
──パーティーに行くって言ってみてよ。勝手にしろって言われるか、行くなって怒られるか。素直な人だから、その反応で分かるでしょ。
──だけど、困ってるんですよね?
──うん、困ってるよ。困ってるけど、君たちみたいな新米中学生カップルの仲を壊してまでは、ねえ。
所々の失礼な言い草はともかくとして、その提案は悪くないように思えた。試すような真似をすることに抵抗はあったが、隆平に「行くな」と言ってほしい欲と少しの好奇心に勝てなかったのだ。
「そんなわけで、中途半端なまま話が終わってるの。ひどいこと、言っちゃったし」
「ふうん。……佐野さん、らしいね」
茉以子はなにかを思い巡らすように視線を彷徨わせたあと、グラスに残っていたワインを飲み干した。すっかり夜更けだ。壁時計は、ちょうど0時を指している。
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