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「あの佐野貴介さんでも勝てないくらい、つばきにとっての隆平くんは最高の男?」
茉以子のすっぴんを見るのは初めてだ。可愛らしさに子どもっぽさとあどけなさが加わり、これはこれで「ずるい」。思ったことをそのまま口に出したら、「すっぴんでその透明感保ってるつばきに言われたくない」と真顔で言われてしまった。
「最高の男……かは分かんないけど、隆平以外は考えられない、かな」
洗い立ての髪から香るハニーフローラルにどきどきする。いつもは柑橘系の香りのものを使っているからかな、自分が自分じゃないみたいだ。
「婚活パーティーでマッチングしたとき、もしかして、もしかするかなって思ってたんだけど」
潤んだ目はお酒のせいで据わっているが、声はしっかりしている。この女子会は朝まで続いてしまうのだろうか。そんなまさか。
「あれはたまたま。向こうも本気じゃなかっただろうし」
「でも、あの人はきっと、つばきみたいな子が好みなんだよね。清潔感があってしっかりしていて、純粋な」
微かな違和感があった。わたしと佐野さんがマッチングして会場を出るとき、茉以子はどんな顔で見送ってくれただろうか。
「わたしと話したとき、興味なんてひとつも持ってくれなかった。ていうか、気づいてなかった、かも」
そうだ、嬉しそうな顔をしていた。だけど彼女は、ずっと前からわたしの気持ちに気づいていたと言っていた。──それなら、どうして佐野さんとの仲を応援するような素振りを見せたのだろう。
「ねぇ、パーティーの同伴って誰でもいいのかな」
思考がまとまらない。お酒のせいだ。あと、食べ過ぎたせい。空になったポテチの袋とキムチのパック容器が目に入る。
「どう、なのかな。困ってるのは確かだと思うけど」
「今回だけで、いいんだよね」
「たぶん」
マスカラを塗っていなくても長い睫毛が伏せられ、あまりの美しさに胸が高鳴った。
隆平は変わっている。こんな子に告白されて断るなんて。佐野さんもそうだ。わたしの周りにいる男性たちの目は、節穴かなにかなのか。
「じゃあ、わたしが代わりに行こうかな。SANOのパーティーのビュッフェなんて、超期待できそうだし」
指と指を絡ませ、茉以子がぱっと顔を上げた。その表情はいつもとなんら変わりなく、こてんと首を傾げてすらいる。
彼女の一言一句を額面どおりに受け取ってもいいのか、判断がつかない。お酒を飲みすぎた、せいだ。
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