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「マジでド深夜だな。何時だと思ってるんだよ」
「ごめんってば。茉以子がリビングで寝ちゃったから、その隙に」
「こんだけ独占されたら、俺、今度は梁川に嫉妬するわ」
風にたっぷりと湿気が含まれていることには気づいていた。ヘアオイルをバッグに忍ばせておけばよかった、と後悔したから。
霧雨が降っている。だが、気温は依然として高いままだ。
蒸し暑く湿っぽい空気に、しとしとと控えめな夜雨。熱帯夜に近い夜になりそう──なんて、予想は見事に外れてしまった。わたしに天気予報は向いていないらしい。
「外にいんの?」
「うん。ベランダ。札駅近くていいなあ、ここ」
「相当飲んでるだろ。なに話したんだ?」
「んー、東隆平、そんなにいい男かよって」
「うわ、陰口かよ。女って怖」
「あとね、羨むのと卑屈は違うって話と、羨んでもいいんだよって話と……ジェラピケと、佐野さん」
めっちゃくちゃだな、と隆平が笑う。きっと、電話の向こうで目を擦っているんだろうな。もう二時だ。待っていてくれると言ったのは本当だった。好き、がふわりと込み上げてくる。
「ジェラピケってなんだよ、呪文?」
「すっごく可愛いルームウェアのブランド。茉以子に借りたの。胸元がちょっと開いた、花柄のワンピ」
「それ、俺にも見せろよ。散々触ったあとに脱がしたい」
「バカ」
彼とお泊まりするとき用の部屋着を用意しておこう、と思う。こんなに可愛いのは無理だけど、いつもより少しだけ女の子らしいものを選ぼう。
隆平の「可愛い」が聞きたい。散々触っても脱がせてもいいよ。だって、今度こそ──。
「金曜日のこと、まだ詳しく聞いてない。まあ、100パーセント許可しねえけど」
「……うん。ごめん」
「いや、謝るのは俺のほう。大切にしたいとか言ったくせに、全然できてなかった」
訪れたことのない彼の部屋のようすが目に浮かぶ。確か1LDKだと言っていた。
きっと、そんなに広くなくて片付いてもいない。夕飯はコンビニ弁当で、部屋の中でタバコは吸わない。お酒が弱いから、缶ビールは3本が限界だ。
「俺は昔から、自分のことだけで手一杯になる。彼女を作るなんて、誰かを大切にするなんて、向いてないんだ。……だけど」
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