12614人が本棚に入れています
本棚に追加
──Side 隆平
「こんな時間に電話してくるなんて、あなたは常識も中学生レベルですか」
「メッセージ送ったじゃないですか。明日電話しますって」
まさか仕事をしていたわけじゃないだろうな。電話の向こうの嫌味くさい声は普段とほぼ変わりなく、人間ではなくロボットなのではないかという疑念を抱いてしまうくらいだ。
「わざわざメッセージを送りつけられたら、返信するしかないでしょう。せっかくスコッチウィスキーを楽しんでいたのに」
「……そうすか。はい、すいませんでした」
いまでもいいですよ、という返信を信用した俺がバカだった。飲む酒まで嫌味くさいとは、この男とは一生相容れそうにない。
「家、ですよね?さすがに」
「会社に住んでるとでも思ってます?」
「質問を嫌味で返すの、やめてもらっていいですか」
「東さんと話していると、揚げ足を取りたくて仕方なくなるんだよね。あなたのように素直な人間は、俺の周りにはいないもので」
これは褒められているのだろうか。眠気で頭がどんよりと重く、思考が鈍っている。あと少しで限界が来そうな瞼を擦り、「それはどうも」と素っ気なく返した。
「つばきから聞きました。人の彼女になんて提案してくれてるんですか」
「これ、社用携帯でする話?」
「仕方ないじゃないですか、私用の番号なんて知りませんし」
「教えときますか?」
「結構です」
そのタイムアタックみたいな即答、なんなの?つばきちゃんと練習でもしてるの?電話の向こうで堪えきれないように笑う声に、眠気が少し飛んだ。
スコッチウィスキーとやらのせいか、深夜のせいか。もしかしたら、普段のこの男とはひと味違うのかもしれない。なんとなく、「素」に近いような──。
「例のパーティー、うちの梁川が代わりに行きたいそうです」
カラン、と気取った音がした。どうせ、タワマンのそこそこ高層階の、間接照明だらけの広い部屋に住んでるんだろう。見なくたって分かる。
この男は、どんなときも広い場所にひとりきり。それを寂しいと感じるのか快適と感じるのかを想像できるほど、俺たちは親しくない。
「……梁川、茉以子さんですね」
なぜ知っているのかと尋ねかけてはっとした。そうか、婚活パーティーで顔を合わせているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!