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──Side 隆平
デートなんて取りやめて、俺んちに連れ込んでしまおうか。いや、つばきがこんなに仕上げてきたのはなんのためだと思ってる?
そんな自問自答を30回は繰り返した。つばきのマンションから札幌駅に着くまでの、わずか10分ほどの間にだ。
エントランスから出てきた彼女はいつもとはまるで違う姿で、小さなショルダーバッグとやたら大きなトートバッグをぶら下げていた。そして、俺の車を見つけるなり小走りでこちらに向かってきて、「待たせてごめんね」と控えめに笑ったのだ。
──可愛い、の最上級ってどれだ?めちゃめちゃ可愛い?それとも、すげえ可愛い?俺の貧困なボキャブラリーではそれが精一杯だが、とりあえず、その辺の女が野菜に見えるくらいには可愛い。
胸の中に燻る賛辞をうまく言語化できないままランチを終えた。斜め下に目線を落とすと、色っぽくゆらめく唇と、首筋から鎖骨にかけての真っ白い肌が目に入る。ああ、だめだ。いますぐ舐め回して貪りたい。
「あ、このお店。茉以子が好きなんだって。可愛いキッチン雑貨がたくさん売ってるの」
ほっそりとした手を握ったままアパレルショップが連なる通りを抜け、エスカレーターを過ぎたところでつばきが足を止めた。当然、俺には縁のないような店だ。
「おまえなら、こんなのいっぱい持ってるんじゃねえの?」
「うーん、そうなんだけど。うちにあるのは実用的なものばかりだから、こういうデザイン重視なのもたまにはいいかなって」
このお玉、使いやすそうで可愛い。こっちの計量スプーン、持ち手のところがハートになってる。嬉しそうに笑いながら手に取っては、「ほら」と見せてくる。こんな笑顔を向けられたら、おまえ以外に興味を持てというのが無理な話だ。
「使ってみたいけど、持ってるものをわざわざ買うのもな」
「じゃあ、俺んちに置いとけば?」
何気なく口にすると、彼女の動きが止まった。どういう意味だと言いたげな表情を向けられ、「いや、べつに、飯作れって言ってんじゃなくて」と慌てて取り繕う。
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