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──Side 隆平
「つばき」
「なに?」
「俺、おまえのこと、すげえ好き」
ローズクォーツがきらめく耳にそう吹き込むと、小さな肩が面白いくらいに震えた。「も、やだ、こんなとこでなに言ってるの」──ほんのりと紅く染まった、すべすべの頬にキスをしたくなる。だけど、一度でも触れたらタガが外れてしまいそうだ。
「……隆平」
「ん?」
「わたしも、隆平のこと、す、すごく、好き」
風が吹けば飛んでいきそうな声のあとに、「嘘、やっぱりなし」と上擦った声。呆気に取られて言葉を失った俺の反応を確かめるように、「調子に乗っちゃって、ごめん」とちらちら視線を向けてくる。
──出た、必殺無自覚クソあざとい。油断した隙にぶちかましてくるところがタチ悪いんだよな。
思わずため息が出た。それを悪い意味で受け取ったのか、「ごめん。なんかもう、いろいろ調子に乗っちゃって恥ずかしい」と俯いてしまう。
「いろいろって、この服とか化粧とか?」
繋いでいた手を放し、細い腰を抱き寄せた。甘く爽やかなサボンが鼻腔を擽り、さらに密着してしまったことに気づく。自分で自分の首を絞めてどうするよ、俺。
「茉以子が選んでくれたの。似合わない、よね。いつも地味なくせに恥ずかし……」
「いや、さすが梁川。おまえのことをよく分かってる」
なあ、今日のおまえ、どうしてそんなに可愛いの?そう囁くと、彼女が無言で首を横に振った。すっかり耳朶が真っ赤だ。こんな場所じゃなければ、齧ってやりたいところだけど。
「さっきの、ベッドの上でも言ってくれるんだろうな」
「えっ」
「俺が好きって言った分、いや、その倍は返してもらわないと」
「む、むり、絶対無理、ていうか、ここでそんなこと言わないで」
わざとらしく目を逸らし、「あ、このミルクパン可愛い。あのグラタン皿も、ココットも」なんて捲し立てているけど、全然ごまかせてないからな。逆にもっと弄りたくなるんだよ、そんな反応をされると。
「鍋よりも皿よりも、おまえのほうが」
「やめて。もう、本当にやめて。恥ずかしくて死んじゃう」
これくらいで恥ずかしがってどうするんだよ。今夜こそ、寝かせる気も離す気もないんだけどな。
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