#11 宵を待たぬ微熱

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──Side 隆平 「つばき」 「なに?」 「俺、おまえのこと、すげえ好き」  ローズクォーツがきらめく耳にそう吹き込むと、小さな肩が面白いくらいに震えた。「も、やだ、こんなとこでなに言ってるの」──ほんのりと紅く染まった、すべすべの頬にキスをしたくなる。だけど、一度でも触れたらタガが外れてしまいそうだ。 「……隆平」 「ん?」 「わたしも、隆平のこと、す、すごく、好き」  風が吹けば飛んでいきそうな声のあとに、「嘘、やっぱりなし」と上擦った声。呆気に取られて言葉を失った俺の反応を確かめるように、「調子に乗っちゃって、ごめん」とちらちら視線を向けてくる。  ──出た、必殺無自覚クソあざとい。油断した隙にぶちかましてくるところがタチ悪いんだよな。  思わずため息が出た。それを悪い意味で受け取ったのか、「ごめん。なんかもう、いろいろ調子に乗っちゃって恥ずかしい」と俯いてしまう。 「いろいろって、この服とか化粧とか?」  繋いでいた手を放し、細い腰を抱き寄せた。甘く爽やかなサボンが鼻腔を擽り、さらに密着してしまったことに気づく。自分で自分の首を絞めてどうするよ、俺。 「茉以子が選んでくれたの。似合わない、よね。いつも地味なくせに恥ずかし……」 「いや、さすが梁川。おまえのことをよく分かってる」  なあ、今日のおまえ、どうしてそんなに可愛いの?そう囁くと、彼女が無言で首を横に振った。すっかり耳朶が真っ赤だ。こんな場所じゃなければ、齧ってやりたいところだけど。 「さっきの、ベッドの上でも言ってくれるんだろうな」 「えっ」 「俺が好きって言った分、いや、その倍は返してもらわないと」 「む、むり、絶対無理、ていうか、ここでそんなこと言わないで」  わざとらしく目を逸らし、「あ、このミルクパン可愛い。あのグラタン皿も、ココットも」なんて捲し立てているけど、全然ごまかせてないからな。逆にもっと弄りたくなるんだよ、そんな反応をされると。 「鍋よりも皿よりも、おまえのほうが」 「やめて。もう、本当にやめて。恥ずかしくて死んじゃう」  これくらいで恥ずかしがってどうするんだよ。今夜こそ、寝かせる気も離す気もないんだけどな。
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