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ネイビーのゆるやかなサマーニットに、グレーのセミワイドパンツ。くせ毛のようにふんわりしたニュアンスパーマと大きな文字盤のごつい腕時計の効果もあるのか、今日の隆平はとてもアラサーには見えない。
シックな色合いの服や大きめの小物は、甘い砂糖顔にミスマッチかと思いきやそうでもない。むしろ、それが顔以外の男らしさを強調しているようだ。
ワイシャツもスーツも柄物を好み、黒やネイビーよりもライトグレーやブラウンのものが多いせいか柔らかな印象を持たれやすいが、今日の彼は少し違う。
──ラフに見えていいもの着てるし、普通にかっこいい、んだよなあ。
映画館、隆平の隣の席の若い女の子がちらちら見てた。ランチで行ったオムライス専門店、隣のテーブルのこれまた若い女の子四人組がちらちら見てた。
どうしよう。隆平の見た目が若すぎて、姉弟みたいに見えていたら。辛うじてカップルに見えていても、全然似合わないって思われていたら。
しょうもないことを考えているうちに、デートは滞りなく進んでいく。キッチン雑貨をはじめとした買い物のせいで増えた荷物は、立体駐車場に停めてある彼の車に置いてきた。これも計算のうちだとしたら、隆平はやっぱり、デート初心者ではない。
「つばき、そろそろ」
彼が少し前から腕時計を気にしていることは分かっていた。余程お腹が空いたのだろうか。
「あ、夜ご飯?なに食べよっか。車だし、飲まないほうがいいよね」
先ほど寄った雑貨屋さんの時計は19時の10分前を指していた。
午前中から一緒にいるはずなのに、驚くほどあっという間だった。楽しくて、わくわくして、ドキドキして、嬉しくて──幸せで。
嘘かもしれない、と何十回も思ったことをまた思う。自分にこんな日が来るなんて。ずっと好きだった、到底手が届くはずのなかった彼の隣を、彼女として歩いているなんて。
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