#11 宵を待たぬ微熱

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 渋みとコクのあるイタリアンワインをひと口含み、ゆっくりと味わって喉に落としていく。仔牛のステーキとの相性が驚くほど抜群だ。赤ワインは得意ではないと思っていたが、おかげでするする進んでしまった。  お酒が強くないはずの隆平も、「俺、日本酒よりはワインのほうがマシなんだよな」なんて言いながら何度もグラスを持ち上げている。そうこうしているうちに、次のコントルノ──ルッコラとチーズのサラダが運ばれてきた。ちょうどコースの折り返しらしい。  隆平が案内してくれたのは、駅直結のホテル内にあるイタリアンレストランだった。  身構えていたのはお店に入るまでの話で、半個室のテーブル席から聞こえる話し声や笑い声が緊張をほっと溶かしてくれた。カジュアルな雰囲気だね、と耳打ちしたら、格式ばった店なんて俺が無理だ、と返された。なるほど、確かに。  味はもちろん、見た目にも美しい料理でお腹が七分目ほどまで満たされ、ドルチェが楽しみになってきたころだ。食前酒と二杯の赤ワインのおかげで、ふわふわと心地のいい高揚感が全身を包み込んでいる。 「そういえば、昨日のこと、梁川からなんか聞いた?」  取り分けたサラダを口に運び、彼が思い出したように言った。  昨日──SANOのパーティーのことだろう。茉以子はわたしが外勤に出ている間に姿を消していた。久保くんによると、定時の少し前に早退したらしい。 「ううん。月曜にでも詳しく聞いてみようかなって思ってたんだけど」 「昨日の深夜、佐野さんから変なメッセージが入ってたんだよな。ありがとうございました、おかげで成功しました、って。あの人、マジで訳分かんねえ」 「いつの間にID交換したの?……仲良し?」 「社用携帯に決まってんだろ。どうして俺があの人と仲良しなんだよ」  ふん、と鼻を鳴らした隆平は満更でもない表情を浮かべていた。  「あいつ、ぼっちで気取った酒飲んで、人に嫌味ぶつけて喜んでんだぞ」 苦々しく吐き出されたセリフにも、どこか情を感じてしまう。担当としてやり取りしている中で、どこかうまの合う一面でも見つけてしまったのだろうか。
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