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「隆平、大好き」
広い背中を掴まえて、噛み締めるようにぎゅっと目を瞑った。
29歳の夏の夜、奇跡が起ころうとしている。自分の人生に起こるはずのなかった幸せな奇跡だ。
誰かと交わる恋は甘いものじゃない。ずっとそう思って生きてきたし、確かにそうだった。いままでは。
隆平といる自分が好きだ。つまらない意地も頑なな強情もどこかに追いやって、ありのままの素直な自分でいたくなる。恐れ続けてきた、自分の中に潜む「可愛い」を咲かせたくなる。
「わたし、ずっと隆平が好きだった。でも、片想いのころとは比べものにならないくらい大好き」
好きな人に好きだと言ってもらえること。この先も一緒にいたいと思えること。誰かのために可愛くなりたいと思えること。
全部、奇跡だ。そんな人と出会えたことも、こうして抱き合えることも。恋とは、夢と紙一重の現実なのかもしれない。
「お砂糖みたいな顔も、子どもくさいところも甘えん坊なところも、口が悪いところも好き。隆平とこうしてると、ほんとに幸せなの」
奇跡を絶対に手離したくなくて、腕に力を込める。微かに目を開けば、光を散りばめた夜。夢かもしれないけど、夢でもいいかな。ふたりで夢と現実を行き来するのであれば、なにも怖くない。
「おまえって……もう、マジで勝てる気しねえ」
地の底まで響きそうなため息をつかれ、きつく抱きしめ返された。さっきから太腿に当たっている硬いものは相変わらずで、「おまえを求めてる」と言われているようでくすぐったい。
「なに避けてんだよ。これがおまえの中に挿入るんだけど」
「ひゃく……ごじゅう、ど?」
「いける?」
「わけないでしょ。バカ」
目を合わせて笑い合って、またキスを交わす。軽い口づけの合間に、「好き?」「うん、好き」と甘い問答を繰り返す。
「大切にする──って意味を、俺は何度も間違えるのかもしれない。だけど、そのたびに振り返って反省して、ずっとおまえの隣にいられるような自分でいたい」
慈しむような手つきで、髪や頬をさらさらと撫でられた。その丸い目が、「好きだ」と囁いている。
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