#11 宵を待たぬ微熱

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「大切にする、って言わせてほしい。おまえのことも、おまえといる時間も、おまえといる自分も」  彼を見つめる目頭が熱くて、何度も瞬きしてしまう。湧き立つような、あたたかな幸せが止まらない。隆平への「好き」が、止まらない。 「つばき、好きだ。ありがとう。俺を好きになってくれて」  そっと(あわい)に指を這わされ、痺れるような快感が戻ってくる。声を上げてしがみつくと、「かわいい」と微笑んでくれた。 「悪い。俺、もう我慢できない」  身体のいろんなところが熱い。まるで彼を渇望しているようだ。わたしの中の知らないわたしが、「欲しい」と叫んでいる。 「うん。……隆平、大好き。わたしのはじめて、もらって、ください」  言い終えるのと同時に、「その無自覚あざとい、一旦封印しろ。優しくできなくなるだろ」と唇を塞がれた。「優しく、しなくても」「ああもう、マジでタチ悪い」──そして勢いよく起き上がり、ベッドの端に引っ掛かっているワイドパンツを拾い上げる。 「なに、して」 「男には準備があるんだよ。いいから見るな」 「えっ……それが、挿入(はい)るの?」 「挿入()れるんだよ。心配すんな、ゆっくりするから」  煌めく夜景を背に、彼が覆い被さってくる。指とは比べものにならない確かな質量が宛てがわれて思わず顔を顰めた。「痛いか?」と心配そうな声が飛んできて、首を大きく横に振る。 「い、たい……けど、やめない、で」  じりじりと迫る異物感が怖くないかと訊かれれば嘘になる。だけど、いまわたしの中にいるのは大好きな彼。ずっと恋焦がれていた、はじめてを捧げたいと願っていた人。 「さすがに……きついな。痛いかもしれねえけど、もう少し」 「隆平が……中に、いるの?」  そこをいっぱいに満たしているのは、痛みよりも幸せだ。涙が目尻を伝い、髪を濡らしていく。 「……つばき」 「嬉しい。はじめて、大切にしてよかった。隆平で、よかった」  大切にしろよ、好きだと思うやつにやれよ、って言ってくれたよね。惨めな気持ちに塗れていたあの夜が嘘みたい。  あなたを、わたしの身体に刻み込んで。痛くても優しくなくてもいいから、あなたのものにして。はじめてのその先を、あなたが教えて。 「人の気も知らないで、可愛いことばかり言いやがって」  優しくできねえの、おまえのせいだからな。別人のように色っぽい声が囁いた。腰をゆらりと動かされ、わたしの中を埋めている彼が蠢く。
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