#11 宵を待たぬ微熱

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 あまりにも揺さぶられて、目眩がする。  すごく感じるところばかりを攻められて意識が遠のきそうになったとき、彼の動きが緩慢になった。肩透かしを食らったような気持ちで丸い目を見つめると、「そんなすぐに達かせねえよ」と砂糖顔が不敵に歪んだ。  いく?そう訊き返したのが悪かったのだろうか。再度押し倒され、キスの雨に応えているうちに激しくなって──零れ落ちるのは、悲鳴にも似た言葉にならない喘ぎばかり。もうだめ、と繰り返しても、彼は満足そうに笑うだけだ。 「りゅう、へい……ほんとに、もう、だめ……あ、あぁっ」 「こういうときは、だめ、じゃねえの。()い、って言ってみ?」 「言えな……あ、そんな、や、あ、やあぁんっ」 「おまえ、ここが好きなのな。突くたびに締めやがって」  ここ、と言われてもそれがどこなのか分からない。なんとか息をするのが精一杯で、彼の欲に応えられている自信なんてまったくない。  せっかく頑張ったメイクは汗と涙でボロボロだろうし、想像するのも恐ろしいくらい不細工な顔をしているだろうし、思えばシャワーすら浴びていない。わたしに比べて余裕のある隆平を前に、快感と幸せで満たされた心の中を仄暗いものが蝕んでいく。  こういうとき、経験のある女性ならどうするのかな。されるがままなんかじゃなくて、彼をもっと気持ちよくさせてあげられるんだろうな。  何度も「気持ちいい」って言ってくれるけど、わたしと同じくらい感じてくれてる?余裕があるのは、経験豊富だから?わたし以外の女性を何人も抱いてきたから?それとも、わたしなんかじゃ満足していないから?  初めてが隆平でよかった、心からそう思ってる。だけど、これから先、隆平の過去に嫉妬しないでいられるのかな。経験値の違いを目の当たりにしたせいだろうか、この幸せに水を差したくなってしまう。 「つばき?」  荒い息を吐きながら、隆平がそっとわたしの頬に触れた。悪い、無理させすぎたか?掠れた声で心配そうに問われて、首を小さく横に振る。 「もしかして、痛いか?俺、つい……」 「違うの。……わたし、ぜんぜん、上手に、できなくて」  生理的ではない涙がほろりと零れて、慌てて力の入らない腕を上げようとした──が、彼のほうがはるかに速かった。指で優しく目元を拭われ、もっと泣きたい気持ちになってしまう。
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