#11 宵を待たぬ微熱

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「つばき」  あたたかな声がわたしを呼ぶ。さっきまでの、少し意地悪な彼とはまるで違う。  せっかくの雰囲気を壊してしまったことに気づき、また惨めな気持ちが襲ってきた。一瞬、目を逸らしたくなったけれど、それではいままでと同じだ。こんなわたしを「好き」「かわいい」と言ってくれる、甘く愛してくれる彼から逃げたくない。 「あの、ね。わたし、すごくきもちいい、し、幸せだから……隆平にも、気持ちよくなってほしい」  丸い目が微かに見開かれたのと同時に、わたしの中に埋まる彼自身がぴくりと動いた、気がした。 「隆平は、きっと、いっぱい経験があって……わたしなんかじゃ、全然だめかもしれないけど。でも、頑張るから。隆平に気持ちよくなってもらえるように、」 「あのな。俺、余裕ぶるので精一杯なんだけど。挿入()れたときからめちゃくちゃ気持ちよくて達きそうなの、すっげえ耐えてんだけど」  またくだらねえこと気にしやがって。両頬を思い切り抓られてはっと目が覚める。彼の向こうに煌めく、無数の小さな光。こんな素敵な場所でわたしを抱いてくれているのは、どうして? 「上手にできねえのは当たり前だろ。経験がないんだから」 「そんな、はっきり……」 「おまえは、この先も俺しか知らなくていい。俺以外に抱かれるな」  暗闇に浮かぶ逞しい姿がゆらめいて覆い被さってきた。額や瞼にキスを落とされて声を漏らすと、「かわいい」と口づけられる。 「俺はおまえしか抱きたくない。こんなに幸せな気持ちになったの、初めてなんだ」  答える前に、彼自身がゆっくりと出入りを繰り返していることに気づいた。微かな水音が聞こえて頬が熱くなる。自分のそこがこんなにも滴るように濡れてしまうことを、今日、初めて知った。 「つばきの感じてる顔も、声も、身体も、俺しか知らなくていい」 「ん……あ……っ、そこ、きもち、い……」 「そうやって、どこがいいとか好きだとか、言ってくれるだけで十分だから。おまえとしてるってだけで、死ぬほど気持ちいいんだよ、俺は」  その言葉が沁み入る暇もなく、彼の腰の動きが少しずつ速まっていく。「とりあえず、全然余裕ねえから。もう限界」──奥深くまで強く穿たれ、喉の奥から甲高い声が溢れ出す。
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