#11 宵を待たぬ微熱

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「こんなに好きな女抱いてんのに、余裕あるとかマジで思ってんの?」  咎めるようなセリフとは裏腹に、優しく諭すような声。その問いの答えを考える暇など与えられない。揺さぶられて突き上げられて、未知の高みに昇っていく。 「そ、んな……あ、そこ、だめぇ……っ」 「くそ……めちゃくちゃ、締ま、る……」  なんとか薄目を開けると、快感に染まりきった彼の姿。余裕──なんてないのは、一緒?苦しそうに息を吐く姿がたまらなく愛おしくて、思わず腕を伸ばす。 「隆平、すき……、だいすき」  そのまま首に巻き付け、ぐっと引き寄せた。強引に唇を奪って火傷しそうな舌と舌を絡ませ合い、僅かな合間に「好き」と零す。彼と繋がっている二箇所から粘着質な水音が響き、五感のすべてを支配されているような感覚に陥る。  こんなに気持ちいいこと、知らない。脳も身体も馬鹿になってしまったかのように、快感だけを求めている。  高みがどんどん近づいてくる。甘やかで危ないその向こう側を知ってしまったら、もう、なにも知らないころの自分には戻れない。そんな気がした。 「つばき、悪い、俺、もう……っ」 「わ、たしも……きもち、よくて、へん……あ、あぁん……っ」 「変になれよ。おまえが達くところ、見たい」  ほら、ここがいいんだろ?かわいく達ってみろよ。掠れた声の挑発と耳にかかる熱い吐息が、わたしをさらにそこへ(いざな)う。俺のものだと言わんばかりにきつく抱きしめられ、ふたりの間には一寸の隙間もない。  ああ、もう、だめ、かも──。頭の中が真っ白になって、自分の身体の真ん中──彼と触れ合っている奥深くで、とてつもなく大きなものが弾けた。  ふっと遠のいた、奈落の底に落ちていきそうな意識をなんとか繋ぎ止める。このまま落ちてしまったら、もう目覚められないのではないか。そう思うほどの心地よさと痺れが襲ってくる。  ほぼ同時に、中をいっぱいに埋めている彼自身が小刻みに震えた。  なんとか薄目を開けると、全速力で走り切ったあとのように肩で息をしている彼の姿。小さく名前を呼んだ瞬間にずっしりと重たい身体を預けられ、今度こそ意識を手放してしまった。
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