#11 宵を待たぬ微熱

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「至れり尽くせり」 「絶対に意味間違ってる。やりたい放題、が正しい」 「口調だけ()()に戻るのやめろよ。あんなにかわいかったのに」 「うるさい。身体に力入んなくて辛いんだから黙ってて」  水、口移しする?ふざけた提案に思い切り首を振り、お布団を頭から被った。いっそのこと泥になってしまいたい。痛みよりも疼きが残る身体は、わたし自身よりずっと素直だ。  あれよあれよという間にその気にさせられ、バスタブの縁に座らされたまま全身を撫で回されることになった。ボディーソープの泡が乳白色のお湯に混じっていくのも構わず、洗う必要のないところまで触れられたのである。 「つばきの肌、すべすべだしぬるぬる」と嬉々として笑う姿は子ども以外の何者でもなく、チームリーダーどころかアラサーにも見えなかった。  かと思えば硬くなった自身を押しつけ、「おまえを触ってたらこうなったんだけど、どうしてくれんの?」と不条理な脅しをかけてきたりもした。そんなものは知らん、と突っぱねたのは心の中だけの話で──。 「あれで達くって、一生の不覚」 「うるさい」 「触られるだけならまだしも、舐められたのがまずかっ……」 「うるさいってば」  拡げられ、彼のかたちを憶えさせられ、散々感じさせられたわたしのそこは、もう余力など残っていなかった。同じことをするのは無理だけど、それ以外なら、なんて──バスルームの温度や湿度と執拗な愛撫に絆されたせいで、ほんの出来心が芽生えてしまったのだ。  自分で自分が信じられない。経験も知識も乏しいくせに、なぜあんなことができたのだろう。 「泡だらけで涙目のおまえにああされるの、背徳感やばくてハマりそう」 「もう一生しないから忘れて」 「なに言ってんだよ。おまえを一生抱くのは俺しかいないだろ」  怒るなよ、ちょっとのぼせたし飲み直そうぜ。いつになく上機嫌の隆平が、よく冷えたワインボトルとグラスをふたつ持って戻ってきた。  いくらなんでもタフすぎやしないだろうか。ジム通いの成果が、こんなところでも発揮されているというのか。
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