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それにしても、見れば見るほど豪華な部屋だ。
ベッドの足元の方には、窓に向かって二人掛けのソファとローテーブルの応接セットが備えつけられている。見事な夜景を心ゆくまで眺めるための特等席のようで、使い方としては彼の提案が正しいように思えた。
「立てるか?」
バスローブ姿でのそのそと起き上がったわたしの隣に座り、そっと肩を抱いてくる。小さく頷くと、「じゃあ、もう少し俺に付き合ってくれる?」とねだるように顔を覗いてきた。甘え上手め。
「つばき、バスローブがぶかぶか」
「仕方ないでしょ。あとで着替えるからいいの」
せっかく用意してきたルームウェアを探す気力もなく、急場凌ぎで、パウダールームに置かれているものをそのまま着た。下着は辛うじて変えたけれど。
同じく新調したブラジャーとショーツのセットはお馴染みの水色だ。無意識に選んだが、やはりピンクよりもしっくり来る。いままでも、消去法ではなく、本当に好きで水色を選んでいたのかもしれない。
「俺の肩によしかかっていいから」
ブラウンのベロア調の生地のソファは適度に固く、酷使した身体に──主に腰から下に──心地よい。優しく髪を撫でられてお言葉に甘えると、ボトルを開けてグラスにワインを注いでくれた。
淡いピンク色のそれは、おそらくロゼワインだろう。こんなものまで用意していたのかと思うと、一度は静まった鼓動がまだ騒ぎ出す予感がした。
「その……ありがと、な」
ひとくち含むと、アルコールが全身に沁み渡る。今夜二度目の乾杯だが、先ほど乾杯をしたときの自分とはまるで別人だ。
「今日、すげえ楽しかった。こんなにちゃんとしたデートは初めてだから、うまくやれた自信はないけど」
ひと呼吸置いた後、「おまえは、楽しかった?」と自信なさげに問われて、また鼓動が騒ぎ出す。
──それ、作戦?それとも、素?
男の顔をした五分後には子どもに戻ったり、雄々しいかと思えば甘えん坊だったり。百面相のようにくるくる変わる姿をうまく掴めないのに、憎めなくて愛おしい。わたしが好きな東隆平という男は、とても不思議な人だ。
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