#11 宵を待たぬ微熱

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「すごく、楽しかった。デート初心者なんて嘘だって思った」 「嘘じゃねえって」 「だって、全部完璧だもん。イタリアンとか夜景の見える部屋とか」 「セックスも?」 「それはノーコメントで」  うわ、めちゃめちゃ傷ついた。男子高校生のような口調で言い、ワイングラスに口をつけた彼の頬にキスをする。それからゆっくりと目が合って、吸い寄せられるように唇を重ねた。真夜中の夜景が、わたしたちを見ている。 「あれだけいろいろしたくせに、まだくっつきたいんだから困るよなあ」  まったく困っていないようすで、隆平がわたしの腰を抱き寄せた。そうだね、困る。小さく答えて、もう一度頭を預ける。お揃いのバスローブからは、シトラスではなくほのかなボディソープの香りがする。 「つばき」 「ん?」 「好き」 「うん。わたしも」 「わたしも?」 「好き」  いったい、何度確認し合えば気が済むのだろう。同じことを思ったのか、示し合わせたようにふたりで吹き出した。 どうしようもねえな、とまたキスが降ってきて、広い背中に腕を回す。最初はぎこちなかったこの行為にもだいぶ慣れてきた。自然にできるようになるまでは、まだ遠いけれど。 「ちょっと、体重かけないでよ」 「ブラ紐見えてる。ぶかぶかだし、風呂上がりでいい匂いするし、誘われてる気にしか」 「誘ってない。勘弁してよ」  想いが通じ合ったその先を、わたしはいままで知らなかった。きっと隆平も。  誰かと交わる恋は、一過性の微熱のようなもの。そう決めつけて目を逸らしてきた。本気になった途端に熱が冷めて、逃げてしまいそうで。  だけど、あなたへの熱は冷めない。あなたの、わたしへの熱も冷めない。そう、信じていてもいい? 「つばき、もっかい」 「無理だから。忘れてるかもしれないけど、わたし、初心者なの」 「あんなエロい顔で舐めてくれたくせに」 「……それは忘れて」  忘れるかよ、と彼が覆い被さってくる。夜景よりもワインよりも俺を見ろと言われているみたいで、くすぐったいし可笑しい。  格好悪くても、あなたと等身大の恋がしたい。ありのままのふたりでいたい。 大切にしてね。大切にするから。子どもっぽくて掴みどころのない、素直で不器用な優しさを持つあなたの隣で、一生微熱に浮かされていたい。
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