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「すごく、楽しかった。デート初心者なんて嘘だって思った」
「嘘じゃねえって」
「だって、全部完璧だもん。イタリアンとか夜景の見える部屋とか」
「セックスも?」
「それはノーコメントで」
うわ、めちゃめちゃ傷ついた。男子高校生のような口調で言い、ワイングラスに口をつけた彼の頬にキスをする。それからゆっくりと目が合って、吸い寄せられるように唇を重ねた。真夜中の夜景が、わたしたちを見ている。
「あれだけいろいろしたくせに、まだくっつきたいんだから困るよなあ」
まったく困っていないようすで、隆平がわたしの腰を抱き寄せた。そうだね、困る。小さく答えて、もう一度頭を預ける。お揃いのバスローブからは、シトラスではなくほのかなボディソープの香りがする。
「つばき」
「ん?」
「好き」
「うん。わたしも」
「わたしも?」
「好き」
いったい、何度確認し合えば気が済むのだろう。同じことを思ったのか、示し合わせたようにふたりで吹き出した。
どうしようもねえな、とまたキスが降ってきて、広い背中に腕を回す。最初はぎこちなかったこの行為にもだいぶ慣れてきた。自然にできるようになるまでは、まだ遠いけれど。
「ちょっと、体重かけないでよ」
「ブラ紐見えてる。ぶかぶかだし、風呂上がりでいい匂いするし、誘われてる気にしか」
「誘ってない。勘弁してよ」
想いが通じ合ったその先を、わたしはいままで知らなかった。きっと隆平も。
誰かと交わる恋は、一過性の微熱のようなもの。そう決めつけて目を逸らしてきた。本気になった途端に熱が冷めて、逃げてしまいそうで。
だけど、あなたへの熱は冷めない。あなたの、わたしへの熱も冷めない。そう、信じていてもいい?
「つばき、もっかい」
「無理だから。忘れてるかもしれないけど、わたし、初心者なの」
「あんなエロい顔で舐めてくれたくせに」
「……それは忘れて」
忘れるかよ、と彼が覆い被さってくる。夜景よりもワインよりも俺を見ろと言われているみたいで、くすぐったいし可笑しい。
格好悪くても、あなたと等身大の恋がしたい。ありのままのふたりでいたい。
大切にしてね。大切にするから。子どもっぽくて掴みどころのない、素直で不器用な優しさを持つあなたの隣で、一生微熱に浮かされていたい。
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