#11 宵を待たぬ微熱

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「ねえ、そろそろ教えてよ。隆平くんとのデート、どうだったの?」  水曜日はノー残業デーだ。とはいえ、上司が残業しているのだからなんの説得力もない。 19時ごろ、揃って事務所をあとにするわたしと茉以子を恨めしそうに見送る姿は、可哀想を通り越してなんだか哀れだった。 「だから、映画観て、買い物して、イタリアン食べて」 「わたしが聞きたいのは、そのあと」 「……さんじゅう、いっかいの、夜景が見える部屋で」 「うわ、なにそれ。隆平くんってそういうことするタイプだったの?」  全然見えなーい、マジすぎてこわーい、とビールを煽る茉以子こそ、そのギャップの埋め合わせをしてほしい。そもそも、このお店に足を踏み入れた瞬間からずっと、周りの視線が痛いのだ。 「茉以子、焼き鳥屋が似合わない女選手権、堂々の優勝」 「はぐらかさないで。ね、どうだった?夜景の見える部屋での初体験。痛かった?気持ちよかった?」 「そんなの、言えな……」 「あ、気持ちよかったんだぁ。顔に出てる。つばきって、ほんとに素直だよね」  そういうところが、隆平くんのあれこれを擽るんだろうなぁ。笑顔で鶏皮串を頬張り、「すみませーん、ハイボールくださーい」と可愛らしい声で呼び止めるものだから、若い男性店員もタジタジだ。 「茉以子こそどうだったの、SANOのパーティー。ビュッフェ、豪華だった?」  今週はお昼にかかる外勤ばかりで、茉以子とゆっくり話すタイミングがなかった。ゆえに、金曜日のことを訊くのは初めてだ。  茉以子と佐野さんがどんな関係なのか──欠けているピースを無理やり集めたいとは思っていないが、もしなにかあるなら聞いてみたい。茉以子との間にある疑問は、なるだけ取っ払いたいのだ。親友、だもの。 「うん、期待どおり。シェフが何人もいてね、レストランの料理並みに美味しかった」 「佐野さんの恋人役は、無事に」 「しちゃった」 「へ?」 「もう会うこともないだろうなぁって思ったから、記念に、みたいな?」  返す言葉を探していると、運ばれてきたハイボールを片手にした茉以子に「やだぁ、つばきってば驚きすぎ」とけらけら笑われてしまった。いやに軽い調子だ。わざとらしいくらいの。
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