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「婚活パーティーで見かけたときはびっくりしちゃった。わたしは一発で分かったけど、全然気づいてもらえなくて。つばきと楽しそうに話してるのを見て、応援してみようかなって」
点と点がいまいち繋がらず、ぬるくなったビールもそこそこに顔を顰めてしまう。そういうことなら、自分から声を掛けてみればよかったのではないか。
「ごめんね。隆平くんへの気持ち、知ってたのに。大好きなつばきが、憧れだった佐野さんとくっついてくれたら、って想像しちゃって」
「それなら……茉以子のほうから行けばよかったじゃない。どうして」
「わたしは、佐野さんみたいな人に近づけるような身分じゃないから」
随分と前に注文した豚串が、冷めて固くなりかけている。まだそんなに飲んでいないはずなのに、頭の中がぼんやりとまとまらない。お酒のせいか、理解力が乏しいせいか。それとも、大切なことを巧妙に藪の中に隠されているせいか。
「……こう言うのもなんだけど、隆平と佐野さんって、全然似てないよね?」
ビールはやめて、レモンサワーにしようと思った。エアコンがそれほど効いていない店内で、ぬるいビールほど不味いものはない。
「似てない、ね。ていうか、真逆?」
「じゃあ、どうして」
「弟に、似てるの」
どこか遠い目をした茉以子が静かな声で言った。狭くて炭の匂いだらけの焼き鳥屋さんに行きたい、なんてらしくないことを言い出した理由が分かった気がした。
なにかを相談したいとき、とにかく話を聞いてほしいとき──こちらの一言一句を漏らしてほしくない気持ちと、BGMのように聞き流してほしい気持ちが同居する。軽くはない話ほど、腰を据えて聞いてほしくないのだ。
そういうときこそ、しんとした場所だと言葉を忘れそうになる。喧騒の波に紛れながら、他愛もない話だというオブラートに包みたくなる。
「弟、いるの?」
「新しいお父さんの連れ子だから、血は繋がってないよ。一個下でね、だらしなくていつまでも子どもみたいな人なの」
思わずじっとりした目を向けると、「あ、違う。隆平くんのことをディスったわけじゃなくて……ほら、いまの隆平くんは生まれ変わった、いわばニュー隆平だし」と茉以子が慌てて両手を振った。
前半はともかく、後半はほぼほぼ同意だ。良くも悪くも、彼はきっと、いつまでも子どもみたいなのだろう。
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