#11 宵を待たぬ微熱

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「弟に似てるから……隆平のこと、好きになったの?」  ますます不可解だ。首を傾げすぎて折れてしまわないだろうか。レモンサワーをジョッキの三分の一ほどまでごくごく飲み、勢いよくテーブルに置いた。 「分かんない。まったく分かんない」  たとえば、わたしはお兄ちゃんに似た男性を好きになるだろうか。不気味なほど若く見える、ど天然でちゃらんぽらんな兄の笑顔を思い出す。……ならない、と全否定したいところだが、所々隆平とキャラクターが被っていることに気づく。なんてことだ。 「分かんない、よねぇ。しかも、隆平くんのほうがずっとまともだし」 「そんなに、どうしようもないの?」 「大きな爆弾落としたままいなくなっちゃったんだよね。どこか行っちゃった」  その響きに既視感があり、再び首を傾げて唸る羽目になる。どこか行っちゃった、って、前にも聞いたフレーズなんだけど──いったい、いつ、どこでだっけ。 「なんか似てるなぁ、から、ほっとけないなぁ、に変わって……結構、本気で好きだったな」 「……ふうん」 「あ、妬いてる?かわいー、つばき」  もう何年も前の話だし、隆平くんの彼女はつばきしかありえないから。屈託なく笑うその可愛らしい顔の裏で、なにを考えているのだろう。複雑な家庭事情を打ち明けてくれたのは、わたしを信用してくれているから?  もしそうなら嬉しいけど、どこまで突っ込んで訊いてもいいのかな。ごく普通の四人家族の中で育ったわたしにとって、多感な時期に両親が離れ離れになることも、血の繋がらない弟ができることも、家族のひとりが失踪することも──うまく想像できない。  かと言って、分かったような口は利きたくない。茉以子が重ねてきたであろう苦労や苦悩を、他人が易々と理解していいわけがない。 「でも、結果的には良かったかも。つばきが佐野さんとくっつかなくて」 「最初からありえないって言ってたでしょ。だいたいあの人、わたしをそういう目では……」 「そうじゃなくて。佐野さんの周り、魑魅魍魎だらけだから」  会社経営なんかしてると、血の繋がった家族でもバラバラになっちゃうのかな。そう言って目を伏せた茉以子は、いつになく悲しそうに見えた。
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