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「佐野さんが結婚を急いでるのって、政略結婚を避けるためだったりして。わー、ありえる。あの一族なら全然ありえる」
また、いやに軽い調子。──茉以子は?茉以子は、佐野さんをどう思ってるの?
憧れだった、って過去形にしているけど、本当はいまも憧れてるんじゃないの?だから、わたしの代わりにパーティーに参加したんじゃないの?一夜を、共にしたんじゃないの?
もういい歳だ。親友だから、友達だからと、洗いざらい話してほしいなんて言わない。嘘や秘密があるのが人間だ。それは分かっている──でも。
「茉以子。わたしにできることがあったら、なんでも言ってね」
テーブルの上で組まれた彼女の小さな手を、両手でぎゅっと包み込んだ。この暑い夜に、エアコンの効きがいまいちな焼き鳥屋にいるというのに、意外にもひんやりしている。
「わたしも、茉以子の恋バナが聞いてみたい。もし好きな人ができたら、絶対に教えてね」
「どしたの、突然。つばきったら、隆平くんの熱烈な愛のせいですっかり……」
「恋愛初心者のわたしじゃ役に立てることはないかもしれないけど、話ならいつでも聞く。なんなら、一晩中飲みながらでも」
つばき、と零れた声が揺れていた。目が潤んでいる気がするのは、今日も完璧なアイメイクの効果?それとも──。
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