#11 宵を待たぬ微熱

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「ありがと。大好き。次は、わたしともデートしてよね」  瞼と目尻がちらちらと光っている。彼女の目に溜まるものには気づかない振りをして、「またコスメ買いに行こうよ。自分で選ぶより、茉以子に選んでもらったほうが確実なんだもん」と返す。 「つばきは、自分に似合うものをいまいち把握してないからなぁ。いいよ、フルで選んであげる」 「いや、それはちょっと」 「なんで?」 「全部デパコスで揃えられたら破産しちゃう」  もう、と可愛らしく唇を尖らせ、茉以子がゆっくりと席を立った。お手洗いに行くようだ。何度か鼻を啜り、ポーチを片手にちょこちょこと歩いていく。  ──これで良かった、のかな。無理やり聞き出すよりも、話したいって思ったときに話してもらったほうがいいよね。  彼女の後ろ姿を見送って数秒後、手持ち無沙汰になってバッグからスマホを取り出した。10分ほど前に、隆平からのメッセージが入っていたことに気づく。 「まだ会社。帰り、何時くらいになりそう?時間合いそうなら一緒に帰る」  20時半を過ぎたところだ。茉以子とは地下鉄の路線が違うから大通で解散だし、おそらく二次会には行かないだろう。もっとも、トイレから戻った彼女が、「実はね」と話を始めたら別だけど。 「分かんないけど、そんなに遅くならないと思う。また連絡するね」  今日も家まで送ってくれるつもりなのかな。ここのところ毎日だ。彼のマンションとは逆方向にも拘らず、その行為を厭うこともない。  さすが「ニュー隆平」──絶妙な語感に肩が震えてしまう。本人に言ったら、バカにすんなよ、と怒られてしまうだろうか。
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