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「つばきさんも、僕と同じ気持ちでいてくれたわけですね」
「一番まともに話せたの、佐野さんだったので」
「ばっさり切るなあ。少しくらい夢見させてくれたっていいのに」
もう夕方の時間なのに、朝から晴れ渡っている空はまだ青い。そして思い出す。今日は、夏至だ。
土曜日の札幌駅前はたくさんの人が交差している。大量のショップ袋を抱えた女の子たち、これからすすきのへ向かうであろう男女の集団、手を絡ませ合って歩く若いカップル。
数時間前まで知りもしなかった男性とこの中に溶け込もうとは、到底思えない。
「マッチングしたら一緒に会場を出ないといけないなんて知りませんでした」
というか、無理にマッチング相手を選ばなくてよかったなら、白紙で出したかったです。危うく出そうになった本音をぐっと飲み込む。
冗談だと思っていた。この人が、本当にわたしを選ぶとは。
「無双してた4番ちゃんより、つばきちゃんのほうが女性陣を敵に回してたね。最終的には」
「それ、自分で言います?ていうか、つばきちゃん、って」
「俺よりだいぶ歳下でしょ。まさかサバ読んでないよね?」
「読んでません」
「そんなにムッとしなくても」
さっきより喋るね、それが素?わたしより頭ひとつ背の高い佐野さんを見上げて、「いつでも素です」と素っ気なく返す。佐野さんこそ、だいぶ砕けましたね。心の中で、そう言い返した。
「そうだろうね。不器用そうだから」
ジャケットから香る甘いムスクが鼻をつく。皺ひとつない真っ白なシャツから、いったいこの人は何者なのかを推測する。やっぱり、「恋の相手」を探しに来たとは思えない。
「不器用かどうかは、関係なくないですか?」
「友達とだいぶタイプ違うよね。しんどくないの?ああいう子」
「べつに、しんどくないです」
どいつもこいつも、同じことばかり訊くんだから──曇った気持ちが顔に出てしまったのか、「あ、またムッとした。笑うと可愛いのに勿体ないな」と軽口を叩かれた。
──茉以子は、誰をマッチング相手に選んだのかな。
あの茉以子が、佐野さんを見逃すはずがない。そうだとしたら、会場を出るわたしたちを嬉しそうに見送ってくれたのはなぜだろう。
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