12647人が本棚に入れています
本棚に追加
「つばきちゃんって、好きな男、いるでしょ」
渡ろうとしたところで青信号が点滅し、仕方なく立ち止まった。答えずにまっすぐ前を見ていると、「でも、片想いでしょ」と畳みかけられる。
「……相手がいるのに参加してる場合だって、あるんじゃないですか」
「いや、それはだめでしょ。普通に考えて」
「佐野さんだって、本気で参加してませんよね。だって、相手ならいくらでも」
そこまで言って口を噤む。「あれ、褒めてくれてる?嬉しいな」──単調な電子音で、信号が変わったことがわかった。先に歩き出したのにすぐ追いつかれてしまう。
「ってことは、やっぱりつばきちゃんは本気じゃなかったんだ。残念」
「だから、佐野さんだって」
「本気だよ。俺は、本気」
信号を渡りきり、駅に入ろうとしたところで手首を強く掴まれた。ここは高架下、頭上を電車が走る轟音が響く。
「連絡先くらいは、聞いてもいい?」
入口の前で立ち尽くしているわたしたちを、通りすがる人たちが怪訝そうな顔で見ている。慌てて彼のジャケットを掴み、端に引き寄せた。
「一応マッチングした仲だからね、それくらいはお願いします」
「……はい」
「これ、読み取ってくれる?連絡するかどうかの判断は、つばきちゃんに任せるんで」
差し出されたQRコードをとりあえず読み取ると、「新しい友だち」の欄に「佐野 貴介」と出てきた。名前、なんて読むんだ?きすけ、でいいの?
最初のコメントを投稿しよう!