#2 夏至のころは恋久しく

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「つばきちゃんって、好きな男、いるでしょ」  渡ろうとしたところで青信号が点滅し、仕方なく立ち止まった。答えずにまっすぐ前を見ていると、「でも、片想いでしょ」と畳みかけられる。 「……相手がいるのに参加してる場合だって、あるんじゃないですか」 「いや、それはだめでしょ。普通に考えて」 「佐野さんだって、本気で参加してませんよね。だって、相手ならいくらでも」  そこまで言って口を噤む。「あれ、褒めてくれてる?嬉しいな」──単調な電子音で、信号が変わったことがわかった。先に歩き出したのにすぐ追いつかれてしまう。 「ってことは、やっぱりつばきちゃんは本気じゃなかったんだ。残念」 「だから、佐野さんだって」 「本気だよ。俺は、本気」  信号を渡りきり、駅に入ろうとしたところで手首を強く掴まれた。ここは高架下、頭上を電車が走る轟音が響く。 「連絡先くらいは、聞いてもいい?」  入口の前で立ち尽くしているわたしたちを、通りすがる人たちが怪訝そうな顔で見ている。慌てて彼のジャケットを掴み、端に引き寄せた。 「一応マッチングした仲だからね、それくらいはお願いします」 「……はい」 「これ、読み取ってくれる?連絡するかどうかの判断は、つばきちゃんに任せるんで」  差し出されたQRコードをとりあえず読み取ると、「新しい友だち」の欄に「佐野 貴介」と出てきた。名前、なんて読むんだ?きすけ、でいいの?
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