#3 あやめはなさく夜更けに

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──Side 隆平 「……可愛げと色気が足りない、ってとこ」 「そんなこと言われたっけ。忘れちゃった」  早くもクラシックを飲み干した高瀬がからから(・・・・)と笑う。すみません、白のサングリア。彼女のペースに負けまいと俺も残りを飲み干し、またクラシックを頼んだ。 「東、お酒弱いんだから無理しないほうがいいよ」 「弱くねえって」 「もう、少し赤いよ。ゆっくり飲みなって」 「うるせえな、普通に飲めるっての」 「いつも、結構無理してるでしょ。今日はふたりなんだから、無理する必要ないじゃない」  ね、と目を少し充血させた高瀬が、俺の手のグラスを取り上げる。ミックスピザを取り分けるために伏せたまぶたの、控えめな輝きが綺麗だ。  ──なんか変だな、俺。いままでこんなふうに、おまえを見たことはないのに。  やはりピッチが早すぎるのだろうか。それとも、アルコールの回りがいつもより早いのだろうか。  自分が酒に強くないのは知ってる。弱いと思われるのが嫌だからいつも飲みすぎるんだ。どうしてこいつは、それに気付いているんだろう。 「しょうがないから、わたしもゆっくり飲むよ。どうせチームリーダー様の奢りだし」  短い髪を耳にかける仕草に胸が鳴った。あの夜を思い出す。薄めなのに柔らかい唇は、職場にいるときよりもしっとりと紅い気がした。
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