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「じゃあ、壁によしかかってろよ。そんなヒールの靴で転んだら骨折するだろ」
「……しないし」
「 酒ばっか飲まないで飯も食えよ。おまえに倒れられたら困るからな」
「 ……食べてるし。ていうか、東よりずっと健康的な食事してるし」
仕事に没頭するあまり、お昼を抜いてるときがあるでしょ。食べてるかと思えば、カップ麺とか菓子パン。せめて社食で食べなさいよ、と言いたくなる。
茉以子にするみたいに、お弁当のおかずを分けてあげられたらいいのに。そんな間柄に、なれたらいいのに。
「部屋、どこ?」
「角部屋。廊下の突き当たり」
駅からマンションまでの間、早く着いて、って思った。だけど、永遠に着かないで、とも思った。
この夜を引き延ばすには、どうしたらよかったのだろう。
すっかり更けて、もうすぐ日付が変わる。もう、こんなふうにふたりで飲むことはないんだろうな。
明日になればまた職場で顔を合わせて、たまに一緒に外勤に行って、チームみんなで残業して、飲み会で世間話や仕事の話をする。いままでもそうだった。きっとこれからも、そう。
「水飲んでしっかり寝ろよ。明日、遅刻しないように」
「……うん」
顔を上げると、丸っこい目と視線がかち合った。羨ましいくらいのぱっちり二重。わたしもこれくらい可愛かったら、もっと自信が持てる人生を送れていたのかな。
羨んでばかりだ。自分以外の人のことを。わたしが可愛くないのは、誰かのせいじゃない。全部、自分のせい。
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