#4 予想外は昼下がりに

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#4 予想外は昼下がりに

「高瀬、はよ」 「……おはよう」  始業時間は8時だけど、7時半過ぎには席に着くようにしている。向かいのコンビニで買ったアイスコーヒーを飲みながら、今日のスケジュールやメールの確認をするのだ。 「来て早々悪いけど、おまえ、今日の15時って空いてるか?」  わたしと東の間の席の向井くん──入社3年目の若い男の子で、背が高く、社会人チームで野球をやっているスポーツマンだ──はまだ出社していない。気まずいから右隣を向かないようにしているのに、人の気も知らないで。 「空いてる、けど」 「担当者が変わったから挨拶させてください、って連絡があったんだ。同席してもらえるか?」 「いいけど……そんなの、こっちから出向いたほうが」 「俺もそう言ったんだけどな、ちょうど出る用事があるので伺いますって。物腰は柔らかかったけど、有無を言わせぬ口調だったな」  あれは結構上の役職なんじゃないか、手強いな。そう呟きながら涼しい顔でコーヒーを啜る横顔に腹が立ってくる。どうしてこんなにいつもどおりなわけ?ほとんど眠れなかったわたし、バカみたいじゃない。 「わたしの同席、必要?」 「おまえの担当区域だぞ、当たり前だろ」  それならそうと早く言ってよ。意地悪してるつもりなの?「あ、そうですか」と素っ気なく返して唇を噛んだ。  気合いを入れるとき用のSUQQUのリップなんて、塗ってこなきゃよかった。 それだけじゃない。スーツの下のラベンダー色のトップスも、小さなフープピアスも、いつもよりヒールが高いベージュのパンプスも、全部お気に入りのものだ。  自然とそれらを選んでしまっていた。昨日と今日じゃ見える景色が変わるかも、って思ったから。
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