#4 予想外は昼下がりに

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「今日のリップ、可愛い。なにかいいことあったでしょ」 「べつに、なにもないよ」 「ふうん。なんとなーく、そう思ったんだけどなぁ」  探るような視線を向けられてどきっとしたあとに、ひやりとする。──まただ。また、やすりで研がれた棘がやんわりと刺さる。 「なーんか、今日のつばき、可愛いっていうか輝いてる」 「そんなことないって。寝不足でクマひどいし」  コンシーラーを厚塗りすると不自然だから、コントロールカラーとリキッドファンデでごまかそうとしたのが悪かったのか。一番バレたくない相手に指摘されたことが、わたしの気分を落ち込ませていく。 「あの人と会ったわけじゃないの?ほら、婚活パーティーの」 「だから、連絡してないんだってば」 「進展あったら教えてよね。つばきとあの人、似合ってたよ。……隆平くんと同じくらい」  最後のほうは、声が小さくて聞き取るのがやっとだった。またひやりとして、「どうしてそこで、東が出てくるの」とパソコンに向き直る。 「だって、隆平くんにあんな口利いてる女の子、つばきだけだもん。男女の垣根を越えた親友、って感じ」  いいなぁ。わたしも、うるせえって言われてみたい。甘く軽やかなフローラルがふわりと香る。その言葉の裏に、深い意味はないはずだ。傷つく必要なんて、ない。 「あんな性格悪いのが親友なんて、勘弁してよ。ありえないって」  だからこっちも、言葉に意味を持たせないで返す。ピンクのフレアスカートが似合う女の子だったら、うるせえ、なんて言われないで済むのかな。
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