#4 予想外は昼下がりに

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「急にお時間を作っていただいて申し訳ありません。早くお会いしたかったものですから」  いえ、と東がかぶりを振る。いつもどおりの人懐こい笑顔を浮かべているけれど、もしかして、少しは気にしてくれている?わたしと佐野さんの関係について。 「人事部長さんが担当になられたんですね。いや、緊張するな」 「いつも、とても良くしていただいてありがとうございます。部下から細かく聞いておりますし、作成いただいた原稿にも毎回目を通しています」  ──なんて居心地の悪い空間だろう。というか、これからは佐野さんとやり取りするってこと?そうだよね。新しい担当者、なんだから。 「高瀬さん(・・・・)」 「は、はいっ」 「ずっと黙ってるけど、主担当は君なんだよね?いいの?新しい担当とコミュニケーション取らなくて」  ん?と首を傾げられて、あのときみたいに「はあ」と間抜けな声が出てしまった。仕事に私情は挟まないように。今朝の東の声が蘇る。 「……申し訳、ありません。原稿を掲載する際の打ち合わせやイベント出展のことも含めて、全般的な連絡調整はわたしが」 「うん。でも僕、高瀬さんの連絡先を知らないんですよね」  その人の良さそうな笑顔からは、佐野さんの真の感情は読み取れそうにない。  連絡しなかったことを責めているのか、単に冗談を言いたいだけなのか。とにかくここは、ビジネスライクに接するのが一番だ。 「前の担当者様とは、社用携帯でやり取りさせていただいていました。番号は名刺に……」 「あ、ほんとだ。ごめんね、小さくて見えなかった」  わたしと佐野さんの会話を黙って聞いていた東が、「もしかして、お知り合い、なんでしょうか」と軽やかな声で繰り出した。 「知り合いというほどのものではないですよ。ただちょっと、数分間お喋りをしただけで」 「お喋り?」 「東さんのような方には一生縁のない世界だとは思いますけどね、初対面の男女が無理矢理お喋りしないといけない場があるんですよ。興味を持ったこともないでしょ。婚活パーティーなんて」
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