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「婚活、本気なのかよ。婚活するために、セックスを教えろとか言ったのかよ」
「ちょっと、会社でそんなこと言わないで」
「会社でキスしといてよく言うな」
「東が勝手にしたんでしょ!」
いい加減にしてよ、と言いかけた唇を強引に塞がれて、会議机に後ろ手をついてしまった。体勢を整えようとしたのに手を重ねられ、東の身体に追い詰められるような格好になる。
「俺を弄ぶなんて百年早いんだよ、高瀬のくせに」
「も、弄ぶ、って……」
弄んでいるのはどっちだ、と大声で叫びたくなる。だけどできない。弄ばれてるってことを、からかわれてるってことを、認めたくないから。
「佐野さんに教えてもらえばいいだろ?どうして俺なんだよ」
さっきよりも深く食まれて、一度は遠のいた疼きがまた戻ってくる。それを訊きたいなら離してよ。どうしてキスばかりするの。
「口、開けろって。教え甲斐のないやつだな」
「ん、も、やだ……こんなとこで」
「誰も来ねえだろ。使用中になってるし」
ていうか、こんなとこ、じゃなかったらいいのかよ。無駄に鋭い指摘に口を噤むと、「昨日みたいにしてみろよ、下手くそ」と可愛い顔が歪む。
「やめて、ってば、セクハラ上司」
「本気で嫌だったら突き飛ばせよ」
大きな手がわたしの腰を捉えた。憎たらしいことばかり言ってくるくせにキスは包み込むように優しくて、回りそうになる意識を必死で繋ぎ止める。
──きもちいい、ってこういう感覚なのかな。誰かに見られたら大変なことになるってわかっているのに、もっとしてほしい、なんて。自分の中にこんな欲望があるなんて、いままで知らなかった。
「なあ。おまえ、婚活したいの?」
「したくない、ってば……あれは、茉以子に誘われたから行っただけで」
「でも、佐野さんは本気なんだろ?」
「そんなわけ、ないでしょ。あんな人がわたしなんかに本気だなんて」
反射的に逸らした唇を捕まえられて、生温かく滑ったものが咥内をまさぐってくる。さっきまで仕事の話が飛び交っていた狭い会議室に、キスを交わす音が響く。
東の手が、腰や背中をさするように行ったり来たりしている。昨日みたいに腕を回す勇気がなくて、ワイシャツを小さく摘んだ。
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