#5 酔い待ちの水曜日

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 プリンを掬い、「そうそう、俺はこういうプリンが好きなんだよね。固める気あるの?っていう、クリームっぽいやつ」なんて呟きながら口に運んでいる。確かに、このカフェのプリンは美味しい。雑誌でもよく紹介されているくらいだ。 「美味しい、ですよね。ランチによく来ますけど、実は結構な頻度で食べてます。このプリン」 「もしかしてあの無双ちゃんと?いかにもスイーツ大好きですぅ、って感じだもんね」 「……佐野さんって、変わってますね」  同族嫌悪というやつだろうか。佐野さんも茉以子も、恋愛がうまくいかずに困ったことなどないだろう。モテすぎて困る、ってことはあったのかもしれないけど。  佐野さんの好意が、百歩、いや千歩譲って冗談ではなかったとして──どうしてわたしなのだ、という根本的な疑問は解決できそうにない。いったい、わたしのどこがそんなに引っ掛かった(・・・・・・)のだろう。 「だって俺、結婚相手を探してるから。ああいうタイプは向いてないでしょ、結婚に」  あっという間にプリンを食べ終え、「ごちそうさまでした」と丁寧に手を合わせる。ぴんと背筋を伸ばしたその姿が、違う世界で生きている人だということを否応なしに実感させる。 「そんなことないですよ。あのとおりいつも綺麗にしてますし、見た目だけじゃなくて、お弁当まで可愛くて」 「なんていうかこう、実用的じゃないんだよね。その点つばきちゃんはいいよ。シンプルだけど身なりに手を抜いてる感じはしないし、仕事は120%、料理も家事もできそうだし」  これは、褒められている、のか。この人と話していると、どうも言葉の裏を勘ぐってしまっていけない。 「職種柄、最低限の身だしなみは整えているつもりです」 「仕事も早いよね。すぐ連絡くれたし」 「あれは」 「家事もきちんとするタイプでしょ。手を見たら分かる」  テーブルの上で重ねていた手を突然取られて、思い切り身を引いてしまった。それでも佐野さんは離してくれない。それどころか、わたしの手のひらをまじまじと眺めている。
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