#5 酔い待ちの水曜日

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──Side 隆平  高瀬に色気なんかあってたまるか。そもそも、散々「ナシ」判定をかましていたくせに、ちょっとスカートを履いたくらいでその反応かよ。男って生き物は、とことん単純でどうしようもない。 「あ、東くんが得意の営業スマイル忘れてる。だから言ったじゃん。つばきちゃん、外見だけならなかなかだって」 「中身だってそんなに悪くねえだろ」  もうすぐ指まで到達するのでは、というくらい短くなったタバコを灰皿に押しつけ、久保の飄々とした顔を睨みつけた。「あら、これはマジなやつ?」──必死で笑いを堪えているような顔しやがって。 「マジって、なにがだよ」 「さあ。自分の胸に訊いてみたら」  ほら、事務所戻るぞ。チームリーダーが時間内に戻らないと示しつかないだろ。肩を軽く叩かれて、そのストライプ柄の背中についていく。  ──なんなんだよ、高瀬のくせに。  処女なのにセックス教えろとか言うし、知らない間に婚活パーティーなんか行ってるし、社長候補のイケメンに言い寄られてるし──最近の俺はとにかく、高瀬のすべてに腹が立つ。だけど一番腹が立つのは、あいつに腹を立てている自分自身だ。  ふと気を抜いたときに思い出すキスとか、声とか、折れそうな身体の感触を、忘れ去ってしまいたいのにうまくいかない。 あいつとふたりになると無性に触りたくなるから、ここ数日は一緒に外勤へ出るのも避けていたくらいだ。 「そういえば、昼休みになってすぐに出て行ったよな。珍しく茉以子ちゃんとは別行動で」  事務所のドアの真前で久保が振り向いた。ガラス窓の向こうに高瀬が見える。オフホワイトの半袖のブラウスからのぞく腕は、相変わらず細っこい。
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