#5 酔い待ちの水曜日

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──Side 隆平 「用事でもあったんじゃねえの」 「ああ、もしかして……今日のつばきちゃんが色っぽいのって、その用事のせいだったりして」  知らねえよ、となんでもないように返しながら、俺は今日の高瀬の外勤予定を思い出していた。午前に三件、午後に二件。昼休みに掛かっているものはなかったはずだ。 「東、急ぎで見てほしいのがあるの。メール送ったから、二時までにお願い」  戻るなり噂の高瀬に呼び止められて、危うく声がひっくり返るところだった。やっぱり、いつもより化粧が濃い、気がする。 「ああ……」  黒いレーススカートから伸びる脚は、確かにまあ、綺麗だ。白くてまっすぐで、ほっそりしていて。  いま見えているのがふくらはぎから下だけだというのが、ほっとしたような、残念なような。 「東、聞いてる?」  むっとしたように顔を覗き込まれて、今度は仰け反りそうになった。俺としたことが、なぜ高瀬なんかにペースを乱されないといけないのか。  そもそも、どうして俺なのだ。  同期だから?同じ係が長いから?飲み会の帰り道、たまたま一緒になったから?偶然が重なっただけなら、俺じゃなくてもよかったのか?いや待てよ、こいつ、俺のこと嫌いだって言ってなかったか?  ぐるぐると考えるとまた腹が立ってくる。見当違いな苛立ちだということは、わかっている。  ──今夜は、絶対になにもしない。高瀬とするキスは危険だ。  あの固く結ばれた唇を解いた瞬間、なんとも言えない快感をおぼえる。もっと深く、もっと先へ、と、本能が指図してくるのだ。  あいつの大切なものに触れる気などさらさらない、はずだった。こんな気持ちでセックスを教えるなんて、冗談じゃない。
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