#5 酔い待ちの水曜日

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「オクラの漬物、ひじきの煮物、ピーマンと白ごまの炒めもの?……これは、ナス?」 「オリーブオイルで蒸したやつです」 「あとは……なんだこれ」 「ブロッコリーの茎を茹でて、ごま油と醤油で和えたやつ。美味しいよ」 「それは、鶏肉と……」 「鶏肉とこんにゃくの煮物。ピリ辛でお酒が進む」  並べてみると、この上なくおばあちゃん感が強い。まだギリギリ20代のOLの食卓だとはとても思えない。不味くはないのは保証する。だけど、いかんせん、可愛くない。 「すげえ、な。食っていい?」  お皿や小鉢をまじまじと見つめていた東が、大きな目を輝かせてこちらを向いた。まだビールを開けてもいないのに割り箸を割って、「うわ、失敗した」なんて嘆いている。 「乾杯してからね。ビール、飲みたいんじゃなかったの?」 「まあ、そうなんだけど」  缶をぶつけ合うのもそこそこに、待ちきれないかのようにピーマンを口に放り込んだ。真顔で咀嚼して飲み込むなり、「うまい」と呟く。 「他のも食っていいのか?」 「う、うん……」  オクラを口に入れて、また「うまい」と呟き、ひじきと大豆を掬って「これもうまい」と頷いている。予想外の反応に戸惑っていると、「すげえうまい。高瀬、料理うまいんだな」ととびきりの笑顔を向けてきた。 「そんな……全部簡単なものだし」 「それでもすげえよ。こんなちゃんとした飯、久々に食った」  ──思いきり笑ったら、子どもみたい。割り箸を割るのが下手くそなところも、うまいうまいって言いながら食べている姿も。  ビールにちょびちょびと口をつけながら、すごいスピードで料理を口に運ぶ彼を見つめる。 東の、こういうところが好きだ。  捻くれている反面、素直で分かりやすいところがある。性格がいいわけじゃないのに、なぜかほっとけない。あの口の悪さと強気な態度は、たぶん、半分くらいは虚勢だし、いろんな意味で欲に忠実。わたしにはないものを、この人は持っている。  こんなふうに生きられたらいいな、といつも思う。浮き足立っていて、奔放で。初めて会ったときから、ずっと羨ましかった。
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