#5 酔い待ちの水曜日

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「なんか、生き返った気がするわ」 「そんな大袈裟な」 「いや、マジで。……ミスるとやっぱり、精神的に来るんだよな」  ばつの悪そうな笑顔を零す東に「向井くんのこと?」と尋ねると、小さく頷いた。 「俺はチームリーダーなんだから、内勤営業に見てもらう前に気づかないとだめなんだよな。部下のミス見逃すって、最悪だろ」  箸を置いてため息をつく、そのがっしりとした肩をさすってあげたくなる。ぐっと堪えて、「でも、出す前でよかったじゃん」と明るい声を出した。 「原稿チェックは、内勤営業の大切な仕事のひとつだもん。茉以子に見つけてもらえてよかったよ」 「そりゃ、そうなんだけど……。俺、やっぱ頼りねえな。だから舐められんだよな」  すっかり気落ちしたようすに面食らってしまう。珍しく弱気な姿に、不謹慎ながら胸がきゅんと高鳴った。  ──これは、慰めてもいい、んだよね?  同じ係が長いから、同期だから、女として見られていないから。理由がどれかは分からない。だけど、こういう姿を見せてくれるってことは──少なからず、わたしを信用してくれていると思っても、いい? 「前にも言ったけど、和気藹々としてるのがうちのチームのいいところでしょ。向井くんも間中ちゃんも、東のこと、舐めてるわけじゃないよ」 「……でも俺、こんな顔だし」 「顔には自信があるんでしょ?ていうか、舐められてるとしたら、顔じゃなくて性格のせいだよ」 「おまえって……マジで褒めて落とすよな。悪い癖だって言ってんだろ」  ブロッコリーの茎をぽりぽりと齧りながら、「俺、性格悪いもんな。リーダーの器じゃねえのは、自分でも分かってんだよ」と呟く。  ああ、落ち込んだと思ったら拗ねた。どうしようもないな。どうしようもなくて、可愛い。……こんなの、男のくせにずるいんだってば。
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