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「高瀬って、どうして梁川と仲いいんだ?」
解散は豊水すすきの駅の近くだった。二次会に行く人たちもいたけれど、とてもそんな気分にはなれなかった。
幸か不幸か、東とは家の最寄り駅が同じだ。東西線を使うため、大通駅まで歩かなければならない。
「よく訊かれる。ていうか、二次会は行かないの?」
「飲み過ぎたから、今日はいい」
「ああ、東、あんまり強くないもんね」
強くないってことはない、セーブしてんだよ。そう不貞腐れたように返される。
東はたぶん、お酒が強くないことを気にしてる。飲めれば偉いってわけじゃないだろうし、そんなの、どうだっていいのに。
「タイプ、真逆だよな。典型的なモテ女だろ、梁川って」
「すみませんね、典型的な非モテ女で」
「そこまで言ってないだろ。ったく、おまえはひと言多いんだよ」
ひと言多くなかったら、一夜限りの遊び相手くらいにはなれてた?──もちろん、口にはしない。
ぬるく湿った夜風。汚いアスファルトから立ちのぼる雑多な匂い。それをかき消すように香る柑橘系の香水。ワイシャツの、さらさらとした衣擦れの音。長いまつ毛が目立つ横顔。柔らかな声で紡がれる男言葉。
飲み会帰りの国道沿いを、肩を並べて歩くのは初めてではない。酔ったと暗示をかけて、なにも考えないようにしているのだ、いつも。
「まあ、持ってるものが違う同士、意外と合うのかもな」
「……東はそうなの?」
「は?」
「自分にはないものを持ってる人に惹かれるの?……初恋相手も?」
東がぴたりと足を止め、驚いたようにわたしを見下ろした。それから、「そうかもな」と自嘲気味に笑う。
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