#5 酔い待ちの水曜日

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「東……おねがい、そこだけは」  自分の身体で自信のない部位、堂々のナンバーワン。なにを試しても大きくならず、申し訳程度の膨らみがあるのみ。下手をしたら、中学生のときから大きさが変わっていないのではないだろうか。  外から見ても分かるかもしれないけど、触られたら一発でバレてしまう。貧相で残念で、男性が想像するそれとは程遠いことに。 「ね、ほんとに、や、なの。ちっちゃいから、全然、ない、から……」 「おまえ、男のことをなにも分かってないんだな」  身をよじろうとしたことを読んだかのように、東が問題のそこを手のひらで包み込む。 いま、どう思っているんだろう。見たまんまだな、とか?小さいっつうか皆無じゃねえか、とか?  どうしよう。東にだけはバレたくなかった。きっといままで、胸が大きくてスタイルのいい女性とたくさん付き合ってきたはず。地味で貧相で、しかも処女。そんなわたしを、いま、どう思ってるの? 「泣くなよ。嫌ならやめる、って言いたいところだけど──そんな反応されたら、やめる気になれない」  また電撃が走る。思わず声を漏らしたわたしの髪を撫でて、彼が目を細めた。 「感じやすいよな、おまえ」 「そんなの、知らない……も、そこ、やだ、ってば」 「そうだよな。他の男は知らないんだよな。おまえが感じやすいことも、こういう顔も、声も」  東がワイシャツのボタンを二つ外し、苦しそうにため息をついた。  また髪を撫でて、額にキス。それから、涙が溜まっている目尻にもキス。最後に唇を奪われて、恥ずかしさも惨めさも靄がかかったようにふんわりと飛んでいく。 「……かわいい、高瀬」  甘い声の囁きに目を丸くすると、東が「しまった」という表情で口元を押さえた。  ──いま、なんて?聞き間違いじゃなければ、「かわいい」って、言った?
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