#5 酔い待ちの水曜日

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「あの……」 「くそ、ほんとムカつく。高瀬のくせに」  額をこつんとぶつけられてまたキスされて、少しの隙間もないくらいにきつく抱きしめられる。 「教える、余裕……残ってねえかも、俺」──その表情はやっぱり苦しそうで、口から出るのは「くそ」とため息ばかり。 「今日はおまえに、絶対になにもしないって決めてたんだけど」 「そう、なの?」 「悪い。無理だわ」  無理って、なにが?問いかける間もなくブラウスのボタンに指をかけられて、ひとつずつ丁寧に外されていく。露わになった薄い胸元に、柔らかい感触。心なしか、東の息が荒い気がする。  ──このまま先に進んじゃうの?そもそも、先に進むって、なに?どういう流れでそう(・・)なるの?ていうか、彼氏でもない人とそんなことをしても、いいの?  頭の中が疑問符で満たされる。マンガでは腐るほど読んでいる展開も、いざ自分の身に起こるとどうしていいか分からない。  わたしは東のことが好きだけど、東はそうじゃない。教えて、なんて言ったのはわたしのほうだけど──誰でもいいと思われて抱かれるのは、嫌だ、な。 「えっと、その……待って」 「待てない。おまえが悪い。無自覚も大概にしろ」  なにそれ、意味わかんないんだってば──東の唇が鎖骨をきゅっと吸い上げたとき、無機質なバイブ音が微かに聞こえた。なかなか鳴り止まないということは、メッセージではなく電話だ。 「ひ、がし……あの、電話が」 「後でいい」 「でも、あれ、わたしの」  一度は切れて静寂が訪れたが、再びすぐに鳴り出した。東は諦めたようにため息をつくと、「出ろよ。急用だったら困るだろ」とだるそうに起き上がった。  助かったと思うべきか、残念だと思うべきか。  胸のドキドキはしばらく収まりそうにない。東の口から出た「かわいい」は、どんな爆弾よりも凄まじい威力だ。 「こんな時間に、誰……」  はだけたブラウスを押さえながらテーブルの上の携帯を取る。ロック画面に浮かんでいた名前は、なんと──。
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